【2020年道央旅】支笏湖と羊蹄山と時々小樽【2日目】

2020年8月31日

 道央旅の続きです。
 前回のはこちらからどうぞ。

 羊蹄山と共に。

2日目(7/25):美笛~倶知安

 アラームの音で目を覚ます。時刻は朝の5時。
 テントの入り口を開けて外に出る。目の前には、鈍色の空の下で支笏湖が悠然と佇んでいる。薄く霧に包まれているのもあって、より幻想的に見えた。


 キャンプ地。テント開けてすぐに支笏湖が見えて素晴らしい。
 
 朝飯を食べつつ、今日と明日以降の天気を確認する。
 今日はなんとか曇りのようだったが、明日以降は雨になるかもしれないという予報だった。
 
 うーむ、どうしようか。
 
 本来であれば、ニセコの方から積丹に抜けて小樽の方まで自走する予定だった。しかし、昨日から膝が悪いということや天気が崩れるということを考えると、ルートを変更したほうがいいかもしれない。
 特に、ニセコの方は完全に山だし、膝に不安をかかえた状態で行くのは良くない気がする。
 今回の旅では、できるだけ膝の不調を悪化させたくなかった。というのも、この4連休の後に道北にいく予定があったからだ。道北には、サロベツ原野や利尻島などを始めとした走りたい場所が沢山あった。ここで膝を壊してしまうわけにはいかない。
 
 いろいろと考えた結果、ルートを大幅に変更することにした。
 今回はニセコにはいかず、羊蹄山の左側を抜けて倶知安という町へ行き、そこから電車で小樽まで行くことにした。
 
 撤収準備を終えて、キャンプ場のゲートへ。
 受付で、キャンプ場の入り口のゲートを開けてもらう。出るときに、受付のおじさんから「自転車でここまできたのか!すごいねえ。頑張ってね」と言われた。元気よく返事をして、キャンプ場を後にした。

 支笏湖を出て、しばらく西に向かって走り続ける。
 辺りは薄い霧に覆われていて、それもあって肌寒い。来ている長袖も霧に濡れていたので、なおさら寒かった。
 しばらく走っていると、霧が晴れてきて空に青空が広がってきた。濡れた身体が少しだけ温まる。
 走り続けていると、目の前にきのこ王国というでかい建物とばかでかい恐竜がお出迎え。
 

 プレミアムきのこ汁……?

 恐竜も謎だけれど、プレミアムきのこ汁というのもなかなか謎。
 どんな味がするのか気になったけれど、そのまま通り過ぎた。
 
 きのこ王国を通り過ぎてからは、しばらく果てしない上りが続く。
 

 果てしない上り。北海道は、緩やかな上りがずっと続くから、それはそれでしんどい。

 アップダウンのある道を超えると、牧草地と青々とした山がお出迎え。


 走っているときにであった牛たち。のんびりと草を食んでいる様子に癒された。

 走っていると、牧草地と牛という牧歌的な風景が目に入ってくる。牧草ロールなどが転がっている所は何度かみたことあるけど、牛が放牧されているのは初めて見たかもしれない。
 牛たちは、私などに目もくれずに草を食んでいた。ここには、まったりした時間が流れていた。
 それにしても、広大な牧草地と牛とその後ろに聳える山という構図は、なんとも北海道らしい。こういうバカでかさが北海道の魅力だと思う。

 牛たちに別れを告げ、目の前の青々とした山を眺めながら走る。
 ちなみに、この山は尻別岳というらしい。最初、羊蹄山が見えたと勘違いして無駄にテンションが上がってしまったりしたことは内緒。
 

 尻別岳。てっぺんが雲で隠れて見えないのが少し残念。

 尻別岳に飛び込んでいくように走り続けていると、コンビニが見えたので補給することに。
 北海道といえど、道央のあたりは30度近い気温になっていて暑い。熱中症にならないようにこまめに水分補給をしていたら、ボトル2本分の水は早くも空になりかけていたから助かった。
 店内に入ると、涼しい風が全身を包み込んだ。涼しいいいいい。
 この時期のコンビニは、まじでオアシスだと思う。特に、北海道みたいに10kmおきとかにしか店がないと、なおさらそのありがたみを感じる。


 補給食代わりのからあげクン。たまねぎみそクリームスープ味ってどんな味かと思ったけど、なかなかおいしかった。

 補給食を食って休憩する。
 空を見上げると、朝の天気が嘘みたいに青空が広がっていた。雲間から除く太陽が、じりじりと身体を焼いていく。
 外にいても休憩にならないので、早々に休憩を終えて走り出す。


 夏って感じの空。

 走り続けていると、綺麗な円錐形をした緑が目に飛び込んできた。
 
 あれはまさか……!!
 

 今日一番の見所の羊蹄山だああああああああ!!

 富士山に似た綺麗な円錐形をした形をしている羊蹄山は、その山容から、別名、蝦夷富士とも呼ばれている。
 青空の下で堂々と構えている羊蹄山は、日本一の名峰である富士山の名を付けられるのも納得な優美さがあった。富士山と比べると、こちらの方が青々としていて夏らしい感じがする。北海道補正がはいっているから、なおさらそう見えるのかもしれない。

 羊蹄山を眺めながらしばらく走る。今回のルートは、羊蹄山の左側をぐるっと回ることになっているので、羊蹄山を様々な角度から眺められて楽しい。


 愛車と羊蹄山。
 

 夏に向かって走る。

 走っていくうちに雲が薄くなっていく。もしかすると、山頂がみえるかもしれないと思ってワクワクしていたけど、結局、走っている間には山頂を拝むことはできなかった。

 蝦夷富士沿いをひたすら走っていると、今日のキャンプ地のある倶知安(くっちゃん)に到着。
 倶知安の町は、エリアごとにマス目上に区画分けされ、そこに道路が通っているような造りをしていた。札幌などと似た、北海道特有の整然とした町。
 建物は新しいおしゃれなものが多く、本当にここは北海道なのか疑問に思うほどだった。住んでいる人も、外国の方や若者が多い印象。今まで、牧草地と山を眺めて走ってきたのが嘘みたいだ。

 そんな倶知安の街並みを横目に、まっすぐに進む。
 倶知安の町を少し抜けると、また自然豊かな場所に出た。


 川と羊蹄山。

 倶知安市街地から3kmくらい走った場所に、今日のキャンプ場である旭ヶ丘公園キャンプ場はあった。
 このキャンプ場は、旭ヶ丘総合公園の敷地内に併設されている。このキャンプ場の見所は、なんといっても無料なところだった。
 無料キャンプ場は使ったことがなかったのでドキドキしたが、入ってみるといたって普通の芝生サイトが広がっていた。手狭ではあるけれど、炊事場やトイレ(決して綺麗とは言えないボットン便所だけど……)もあり、近くには日帰り温泉もある。市街地までいけばコインランドリーやコンビニもあるので、利便性はそこそこいいんじゃなかろうか。
 ※あくまで、野宿大丈夫な私の意見です。

 思ったよりも悪くなくてほっとする。ボロボロのキャンプサイトじゃなくてよかった。
 そんなことを思いつつ、キャンプサイトの一番奥にテントを張った。
 テントを張った後は、まずは昨日できなかった洗濯をしにコインランドリーへいくために、市街地まで自転車を走らせる。

 大型の洗濯槽に、洗濯しそびれた洋服達を入れてしばし待つ。
 暇だなー、と思いながらコインランドリーの本棚を見ていると、「ラブ&ピース 鴨志田穣がみたアジア」という本があり、なんとなく手を伸ばした。
 鴨志田穣ってどこかで聞いたことがあるなと思って調べてみたら、西原理恵子の夫で戦場カメラマンをしていた人だった。中学の頃は毎日かあさんをよく見ていたから、それもあって知っていたんだ。
 本には副題の通り、鴨志田穣が見たアジアについて書かれていた。決して豊かではない生活をしているアジアの人たちの生活や生き方を戦場カメラマンとして鴨志田穣が見て感じたことが、彼の撮った写真と共に短い文章綴られていた。短い章ごとに区切られた文章たちはまとまりがなかったが、やけに人間臭く、旅の匂いがした。
 あとがきを読むと、どうやらこの本は鴨志田穣の死後に作られたものらしい。彼の書いた文章から印象的なものを選んで制作したのだとか。通りで、やけにまとまりがないわけだった。
 夢中で読んでいたら、読み終わるころに洗濯が終わった。
 
 洗濯物をもって、温泉へと向かう。
 温泉は、キャンプ場のすぐ近くにあった。今回は、ホテルようていの日帰り温泉を利用する。
 受付を早々に済ませて浴場へ行く。温泉!温泉!!
 一日ぶりに石鹸で身体を洗うと、身体がすっきりとして気持ちが良かった。全身の油汚れがごっぞり落ちているような気がする。やっぱ、自転車旅には温泉が必須だ。
 露天風呂にいくと、目の前には羊蹄山が佇んでいた。本来であれば最高の景色が眺められるのだろうけど、今は羊蹄山の山頂に分厚い雲がかかっていて、いまいちな感じ。
 羊蹄山を眺めながら入浴をしていたら、同じく露天風呂に浸かっているおばちゃんから声をかけられた。
 しばらく、おばちゃんと話す。おばちゃんは、私のことを珍しいもののように見ていた。ローカルな温泉だとご近所さんや顔見知りしか集まらない傾向にあるから、それもあって余計に物珍しいのかもしれない。
 おばちゃんと話し終えて、しばらくしてから温泉を出た。

 温泉を出て、休憩スペースでのんびりする。休憩室のソファーでくつろぎながら瓶のコーラを片手に大画面に映るクレヨンしんちゃんを眺めた。
 しばらく、口をあけながらぼーっとしてた。そろそろキャンプ場に戻った方がよかったのだけれど、ローカルな温泉特有のまったりした空気が心地よくて離れがたかった。
 洗濯をしにコインランドリーに戻らなければならないことを思い出し、ようやく重い腰を上げて温泉を後にする。

 コインランドリーで二度目の洗濯を終える頃には、夕日が地平線に沈みかけた頃だった。
 近場のセコマで夕食を済ませてから、自転車をこいでキャンプ場への道を走る。
 ふと、羊蹄山を見ると、雲が薄れて頂上がかすかに見えた。


 おお……

 思わず、声を上げてしまう。日中、ずっと見ることができなかったのもあって、ちょっと嬉しい。

 キャンプ場につき、自分のテントまで自転車を押して歩いていると、同じキャンプ場に泊まっているおじさんに声をかけられた。
 どうやら、ソロで来ている人たちを集めて飲み会をするとのこと。面白そうだったので、混ざることにした。
 私が合流する頃には、お兄さん2人とおじさん3人が集まっていた。思ったよりも数が多くて驚いた。とりあえず、会話に混ざってお話することにした。
 集まっている人は、私を除いてみんなバイク乗りだった。乗っているバイクもバラバラで、骨董品のようなスーパーカブに乗っている人から、大型のバイクに乗っている人まで様々だった。
 そして、バイクの個性がバラバラなように、集まっている人たちもかなり個性的な人ばかりだった。仕事をやめて放浪している人や、自営業でなんとかやりくりして夏に長期休暇をとっている人、旅が好きで働きつつ旅をし続けている人……
 趣味も仕事も住んでいる場所も乗っている車種もバラバラで、旅をしていなかったらきっと出会うことはないだろう人たち。こういうことがあるから、旅の出会いっていうのは本当に面白い。
 ちなみに、話していくうちに知ったことだけれど、このキャンプ場は北海道屈指の人をダメにするキャンプ場なのだとか。このキャンプ場が気に入って、このあたりに定住することを決めた人もいるとかなんとか。
 それもあってか、集まっている人の中には、ここが気に入って2泊してしまった人や2週間ずっと泊っている猛者もいた。2週間って大分すげえな。
 手狭なキャンプ場だしトイレはボットンで汚いけれど、確かに温かみのあるキャンプ場だと思った。

 そのあと、話は盛り上がって、バイクに股がらせてもらったり骨董品のようなスーパーカブを見せてもらったりした。
 集まっているおじさんの一人と仲良くなり、お勧めのライダーハウスを教えてもらった。

おじさん「ロッジモーティブとログ縁、この二つは覚えておきや」
私「なるほど」

 ライダーハウスは、まだ利用したことがない。今度、機会があったら使ってみるのもいいかもしれないと思った。
 
 自転車をふと見ると、おじさんが私の愛車に何かを取り付けているのが見えた。
 見てみると、メロン熊のちっちゃいぬいぐるみのキーホルダーだった。

おじさん「メロン熊あげるよ」
私「い、いらねえええええええ」
おじさん「俺もいらねえんだよ。旅先で出会った人からもらったんだけど、つける場所ねえから困ってんだよ」

 「いらない」と「あげる」を何度か繰り返した結果、私がメロン熊を引き取ることになった。なんでや。
 そんなこんなで夜が更けていく。このキャンプ場に2週間滞在しているおじさんから、明日も泊まらないかと言われた。どうやら、このキャンプ場に魅入られてここに住み始めた元旅人が差し入れを持ってきてくれるのだそうだ。人数が多い方が楽しいから、いてくれないかと言われた。
 私は、少しだけ考えた。明日は、小樽に行く用事しかないので別にいてもよかった。ただ、この辺りは私の足で行ける範囲はもう走りつくしているし、かといって一日キャンプ場で過ごすのもなんか違う気がする。
 いろいろと考えた結果、結局、小樽に行くことにした。そっちのほうが、なんだかワクワクしたからだ。
 おじさんにそれを告げると、メロン熊をくれたおじさんと一緒になんとかして私を引き留めようとしてきた。な、なんだこの熱量は……!?
 何度も勧誘されたけれど、「旅は、名残惜しいくらいが丁度いいんです。だから、小樽の方に行きます」といったら、しぶしぶ(本当にしぶしぶって感じ)で引いてくれた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、寝る時間になった。
 集まっていた人達は、自分たちのテントに戻っていく。
 私も歯磨きを済ませ、テントに戻る。
 寝袋に潜り込むと、お酒の力もあってか、すぐに瞼が重くなっていった。
 楽しかった時間を思いながら、まどろみに落ちていく。スヤァ……

 三日目に続く