どうも、拓夏です。
今回は、2021年の11月20日に八丈島一周したときの記事を書こうと思います。
八丈小島と共に
常春のひょうたん島へ
11月になり、関東は冬に向けて寒くなっていくばかりだ。冬の寒さもそれはそれでいいものだが、たまには温暖な気候が恋しくなる。
ただし、本州は晩秋をすぎてようやく冬に突入する頃であり、温暖な気候はまだほど遠いのであった。
遠いなら、こちらから出向いてやればいいではないか。
そう思った私は、日本地図を眺めた。
日本で温暖な気候といえば、最初に思い浮かぶのは沖縄であろう。
亜熱帯に位置する沖縄は、12月でも薄着で過ごせる気候である。The 温暖な気候。
早速、沖縄行きの航空券を見てみる。目ん玉が飛び出るほど高い。却下だ。
そのほかにも、九州の離島なども調べたが、日数やら価格やらの問題でなかなか厳しい。
次に、思い浮かんだのは伊豆諸島だった。
伊豆諸島。伊豆半島の南東方向に位置し、大都会東京に含まれる島々。
その島々の中でも、南方に位置する島は常春の気候にあるという。
伊豆諸島は、私の中でも特に思い出深い島々だ。というのも、私が自転車に"はまる"きっかけをくれたのが、伊豆諸島の一角に位置する伊豆大島だからだ。
思えば、初めて大島に行って以来、伊豆諸島には行っていなかった。
伊豆諸島へは、東京の竹島桟橋から深夜便が出ている。金曜の夜に乗れば、翌朝には走ることが出来るので、なにかと都合がいい。船の値段もそこまで高くはない。
アクセスの良さと値段。そして、久々に伊豆諸島に行きたいという思いが重なり、伊豆諸島へ行くことに決めた。
伊豆諸島のなかでも、さらに的を絞る。地図を眺めた時、一つの島が目に入った。
伊豆諸島の中でも南方に位置する、ひょうたんのような形をした島・八丈島。
東京から南約290km先にあるその島は、常春の気候と美しい海を持つことから、かつて「日本のハワイ」と称されていたらしい。温暖な気候を求めていくにはぴったりだろう。
そんなこんなで、常春の島「八丈島」へ、春を捕まえにいくことにしたのだった。
【前夜】いざ、八丈島へ
2021年11月19日の22時。私は竹島桟橋の東海汽船待合室で八丈島行きの客船の乗船案内を待っていた。
待合室には、自転車やら釣り用具やら登山の大型ザックやらを携えた人たちが集まっていた。待合室は、和やかなムードに包まれており、これから始まる週末のひと時を楽しみにしている気持ちが伝わってくる。
そういえば、このような和やかなムードに包まれるのも久々だった。某ウイルスが蔓延して以降、行楽に関して世論は否定的だった(もちろん、そうなって然るべきだと思う)。そんな状況だったのもあってか、旅先でみかける人たちは外に出かけることに関してどこか引け目を感じているのか、どこかぎこちない雰囲気をまとっていたような気がする。
だから、このようなおっとりとした雰囲気は久々で「ああ、ようやく俺たちの旅が戻りつつあるのだな」としみじみと思う。
それにしても、やたらと輪行袋装備の人々が多い。なにかと思っていたら、乗船券売り場のすぐそばに「伊豆大島 御神火ライド」の看板が見えた。
御神火ライドとは、伊豆大島を自転車で回るイベントのことで、年に一度開催されている。今年は11月ごろに開催するといっていたが、まさか今週末にやるとは。通りで自転車が多いわけだ。
御神火ライドで大島に行く人々を横目に見つつ、待合室でぼんやりと過ごしていると、やがて、船の乗船案内が流れ始めた。東海汽船の大型客船は、階級が上の人から順に乗っていくようになっているので、特等の席の人から順に乗り込んでいく。
私は、一番下の階級の「二等和室」の席を選んだので、乗る順番は最後の方だった。輪行袋に入った自転車を担いで、船に乗り込む。
自転車を船内の手荷物置き場に置き、乗船券に書かれている席を探して座る。
二等和室は、ギリギリ人が一人眠れるくらいのスペースに枕だけが用意されているような場所だった。人が多ければ寿司詰めになるような場所だけれど、いかにも貧乏旅といった風情があって私は嫌いではない。
自分の席にマットと船内で100円で借りられる毛布を敷いて寝床を作ってから、船の中を探索しに行くことにした。
船内の装飾。大型客船なだけあり、普通のフェリーと違って装飾が綺麗。
船の中は、大型客船というだけあって広々としていた。船内にはレストランや自動販売機等が置かれており、船内の清潔な装飾も相まってショッピングセンターの一角ような雰囲気を醸し出している。
船内は、まるで船の中ではないような雰囲気だが、階段付近で飲み明かしているおじいちゃん達や船内を見て回る浮かれた学生達が、ここが島行きの客船であるということを物語っている。
一通り船内を見て回ってから、5階にある展望デッキを目指す。
扉を開け、外に出ると冷たい風が全身を包み込んだ。身を縮ませながら、手すり越しに景色を眺める。
東京湾に浮かぶ夜の街並みは、街明かりの淡い光に包まれていて幻想的だった。しばらく、離れていく東京の景色を眺める。
やがて、本格的に冷え込んできたので、客室に戻る。自分の席に敷いたマットに寝転び、毛布をかぶると眠くなってきた。
そのまま、目を閉じると、ゆっくりと意識が暗転していった。
スヤァ……
【1日目】八丈島一周へ!
船内に流れ始めたアナウンスで目を覚ます。
八丈島行きの船は、途中で三宅島、御蔵島を経て八丈島に到着する。アナウンスによると、どうやら最初の停泊場である三宅島に到着したようだった。
時計を見ると、4時半だった。八丈島の到着予定時刻は9時頃であるため、まだまだ時間はある。
二度寝をしよう2時間ほどもがいたが、妙に目が冴えてしまって眠れない。仕方なく起きて、外の景色を見るために展望デッキへと向かう。
展望デッキへ続く扉を開けると、早朝の冷たい風が頬を撫でた。
船の手すりまで歩いていき、景色を眺める。
水平線は淡い桃色に染まっており、夜明けの到来を告げていた。水色と桃色の独特なグラデーションの空には、淡い色をした月が浮かんでいる。
展望デッキから見る朝日。オレンジの光が眩しい。
反対側を見ると、逆行で輪郭が淡く輝いている小島が見えた。しばらく眺めていると、小島に隠れていた太陽がひょっこり顔を出し、鮮烈なオレンジの光であたりを照らした。
太陽と月が一緒になって浮かんでいるこの時間は、一日のなかでも特に幻想的な瞬間だと思う。特に、水平線と小島以外何もない場所で見るこの景色は、ファンタジー世界のようなどこか現実感のない雰囲気を醸し出していた。
しばらく、展望デッキの上で時間をつぶしてから、船内に戻る。
マットに寝転がってゴロゴロしながら暇をつぶしていたら、気づかない間に眠りに落ちていた。
次に起きたのは、船が八丈島に到着したときだった。
船内アナウンスに従って、下船の準備をする。荷物をまとめ、手荷物置き場から自転車を回収して船の出口に向かう。
出口付近には、既に多くの人が集まっていた。その中に加わって、下船まで待つ。
しばらくしてから、船の出口が開いた。人の流れが生まれ、それに従って下船する。
自転車をもって外に出ると、温かい日差しと鮮やかな青空がお出迎え。ぽかぽかとした陽気が心地よく、一瞬、晩秋であることを忘れそうになる。なるほど、確かに常春の島と呼ばれるだけある。
適当な場所で輪行を解除し、荷物を取り付ける。今回は宿泊なので、装備は簡素だ。
準備ができたら、いざ、八丈島一周へ!
今回は、反時計まわりで島を回るので、底土港を出てから右に曲がって走り出す。
南の島らしい街路樹が並ぶ道を走る。走っていると、目の前に八丈富士が見えてテンションが上がる。
走り始めてすぐに、ゆるい上りに差し掛かる。ゆるゆると上っていく。
しばらく走っていると、こんなモニュメントがお出迎え。
ここは、サッカー日本代表の長友選手が自主練で使っている坂なのだとか。モニュメントに刻まれている言葉が熱い。
モニュメントを超えて、ひたすら上りをこなす。しばらく上っていたら、やがてこんな景色が見えてきた。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
鮮やかな海と、そこに浮かぶ八丈小島が美しい。
The 島って感じの景色にテンションが振り切れる。
八丈小島と海を眺めながら、アップダウンをこなしながら走っていたら、海岸沿いに出た。
ふと、走ってきた道を振り返ると、後ろには雄大な八丈富士が聳えていた。
黒い砂浜とごつごつした岩場が特徴的なこの場所は、八丈島が噴火したときに流れてきた溶岩が冷え固まってできたものらしい。岩の種類は玄武岩なのだとか。
ごつごつとした岩場と海の組み合わせが渋い。島らしいワイルドな景観だ。
しばらく雄大な景色を眺めてから走り出す。
南原千畳敷から少し走ると、大潟浦園地に到着した。
海にせり出している岬の緑と海の青が美しい。園内の景観がそれとマッチしているのがなお素晴らしいと思う。
いつだったか、礼文島で見た「北のカナリアパーク」を思い出すような景色だ。海と山と芝生って結構いい組み合わせなのだなと思う。
綺麗な景色を眺めて走ってきたが、カンカン照りの太陽にずっと照らされて走ってきた身体は汗だくで、水分を求めていた。
水を飲みたかったが、港を出る前に飲み物を買うのを忘れてしまって手元にない。そして、恐ろしいことに、ここに来るまで自動販売機を一台も見かけておらず、補給もできていない。
へろへろになりながら、なんとか水分を補給できそうなところを探す。
すると、こんなものが目に入ってきた。
み、水だ……!!!!
やっと見つけた水場に飛びつく。蛇口をひねると、水が出てきた。生き返る……!
水分補給をしたら、少しだけ元気になってきた。
水分を補給して復活したので、再び走り出す。
海沿いを抜けると、ゆるい上りになる。軽いギアに変えながら、ゆるゆると上っていく。
このあたりから、丸い石を積み上げて作ったような石垣が見られるようになってきた。
八丈島の玉石垣。流人が積み上げて作ったものらしい。
この石垣は「玉石垣」と呼ばれている、八丈島の伝統的な石垣だ。
八丈島は昔から暴風雨の多い地域であり、溶岩や玉石と積み上げて石垣を作ることで、風や雨から住居を守っていたのだとか。
先人の知恵を見ながら、坂を上り続ける。
アップダウンをこなしながら走っていると、目の前に山沿いに走るえぐい上り坂が見えてきた。思わず「これを上るのかよ……!」と思ってぎょっとする。
ギアを軽くしてひたすら踏む。ただ、踏めども踏めども全然前に進まない。歯を食いしばって何とか進む。
汗だくで踏み続けていたら、大坂トンネルの入り口が見えてきた。
この付近には、大坂トンネル展望台がある。そこでいったん休憩しようと思っていたら、近くにいたおじさんから声をかけられた。
おじさん「このあたりに旧日本軍の跡地あるの知ってる?」
私「え、まじですか?」
おじさん「トンネルの横にある穴ね。あれ、砲台跡地らしいよ。」
おじさんに言われるままに、トンネルの左側を見ると、ぽっかりと穴が空いている。この先に、旧日本軍の砲台跡地があるのだとか。
ぽっかりと開いた穴の先は暗くて見えない。おじさんによると崩落する可能性があるらしいので、外から覗くだけにした。
おじさんと別れた後は、どこまでも続く海と水平線を眺めた。
上りが辛いところほど、展望は素晴らしいと思う。じゃないと自転車で坂なんて上ってられねえ。
展望台で水平線を眺めてから、再び走り出す。
次に向かうのは「黒砂砂丘」と呼ばれる場所だ。
大坂トンネルを抜けてしばらくすると、黒砂砂丘の入り口に到着する。
自転車を降りて、黒砂砂丘への道を歩く。最初の歩道は舗装されていたが、進むにつれて細く荒れた道になっていく。道の両側にはジャングルにあるような植物ばかりが生えており、気分はさながら森の奥地を目指す探検隊だった。
しばらく道を進むと、地面が黒い砂に変わった。硬い地面と違い、砂は踏むたびにボロボロと崩れていくので歩きにくい。推進力が砂に吸い尽くされてしまうので、思ったように進めず悪戦苦闘する。
黒い砂の道をひたすら歩いていたら、黒砂砂漠に到着した。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
目の前には、広大な海と半島の緑がどこまでも続いている。遠くに見える水平線は、緩やかな弧を描きながらどこまでも続いていた。
こんなスケールの大きい景色は、遮るものが一切ないこんな場所でないとみられない。ここまで歩いてきて本当によかったと思った。
しばらく景色を眺めてから、来た道を戻る。砂に足を取られつつ、なんとか自転車を置いていた場所までたどり着いた。
と、ここで問題が発生する。右膝の側面が痛くなり始めたのだ。
7月に四国一周のリベンジをした時から、右膝の調子が何かと悪い。今回は、砂の上で踏ん張って歩き続けたため、痛めてしまったようだった。
島一周まであと15km程度。それまではなんとかごまかしてやっていくしかない。気合い。
そんなこんなで、黒砂砂漠を出て次の目的地である「裏見ヶ滝」へと向かう。
膝痛とアップダウンの多い道に悪戦苦闘しつつ、なんとか到着する。
裏見ヶ滝は、滝を裏側から見ることができるという珍しい場所で、八丈島の観光名所として広く知られている。
観光名所なだけあって、人をちらほらと見かける。階段を登って道なりに歩いていくと、裏見ヶ滝に到着した。
裏見ヶ滝。滝を裏側から見られるからこの名前がついたのだとか。
滝自体は想像していたよりもかなり小さく、滝独特のスケールのでかさはないが、周りにあるシダ植物や熱帯っぽい感じの植物達が生い茂っているのもあり、なかなか雰囲気が良い。
裏見ヶ滝を見た後は、近くにある足湯へと向かう。
八丈島は温泉が多いことで有名だが、特にこの付近で多い。
ちなみに、裏見ヶ滝の入り口付近にも無料で入れる混浴の天然温泉があったりする。絶景を見ながら野湯に浸るのはなかなか浪漫がある。今回は水着をもっていなかったので、泣く泣く割愛した。
裏見ヶ滝からえぐい下り坂を下っていくと、足湯に到着する。
靴下を脱いで湯に足を浸すと、熱めのお湯が疲労した筋肉を溶かしていく。極楽極楽……
足湯に入って視線を前に向けると、目の前には広大な海が広がっていた。こんな絶景をみながら足湯に浸れるなんて贅沢すぎる……!
しばらく、のんびりと目の前の海を眺める。
ふと時計を見ると、時刻は14時を回っていた。宿のチェックインが16時なので、そろそろ走り始めないといけない。
本日の宿は底土港のすぐそばにあるので、島一周してからすぐにチェックインできるが、底土港まではあと15kmほどある。普段なら問題のない距離だが、この先はえぐいアップダウンがあるという噂だし、それを負傷した足で上らなければならないから早めに出たほうが良さそうだった。
足湯を出て、底土港を目指して走る。
裏見ヶ滝からしばらくは下りだったが、名古の展望台という場所を超えてからひたすら長い上り坂に差し掛かる。
この長い上り坂は、登龍峠という場所に続いているらしい。登龍という名前がついているだけあり、グネグネと九十九折りになった上り坂がひたすらに続く。
ただし、勾配はそこまででもないので、噂に聞くほどつらくはなかった。膝の痛みが無ければ快走できるレベル。
軽いギアで回しながらするすると上っていく。
長い上りを超えると、登龍峠に到着した。
おおお……!!
八丈富士と海と街並みが目の前に飛び込んできた。淡い光に照らされる八丈富士がやけに印象的に映った。
ああ、上ってきて良かったなあ……
上り坂を登っている時はひたすら苦しいのに、頂上の絶景を見たらそんな辛さなんてどうでもいいと感じてしまう。自転車乗りとは難儀な生き物だ。
絶景をずっと眺めていたいのだけれど、宿のチェックインの時間がギリギリになりそうなので、到着して早々に出発する。
登龍峠から先は、ずっと下りだった。九十九折になっている道を快走する。
ひたすら下ると、出発地点兼終点の底土港に到着した。
八丈島一周完了!
一周の余韻に浸りたかったが、宿のチェックインの時間が迫っているので慌てて宿に向かう。
宿は底土港から徒歩2分の場所にあるので、すぐに到着した。
受付を済ませ、部屋へと向かう。6畳ほどの部屋に荷物を置き、畳の上に大の字になって寝転ぶ。
一度寝転ぶと、起き上がるのが億劫になってしまい、畳の上でゴロゴロしながら過ごす。
しばらく、そうしていたのだけれど、50km近く補給食なしで走ってきたのもあって、腹が減ってきた。外をみると、徐々に日が暮れてきている。
本格的に暗くなる前に買い物に行こうと思い、ぐうたらな身体をたたき起こす。
飲み屋で飲むとお金がかかるので、今回はスーパーまで行って食材を調達することにした。
宿を出て、大きな通りを道なりに進む。スーパーまでの道を歩いていたら、小さな本屋が目に入った。
そういえば、帰りの船が昼行便なのを思い出す。船の上では電波が届かずネットが使えないので、このままでは10時間ほど暇になってしまう。暇つぶしのために、本を1冊買っておいた方がいいかもしれない。
そう思い、本屋へと入った。
余談だけれど、私は旅先で本屋に行くのが好きだったりする。本の種類によってその土地の生活や雰囲気をなんとなく感じられるからだ。
のんびりと棚に並んでいる本を眺める。高齢の方が多いからなのか、健康に関する本が多いのが印象的だった。他には、八丈島の歴史関係の本などもある。島関係の本の中には、辞典のように分厚い専門書もあっておもしろかった。
そのほかは、学生向けのラノベや漫画、東野圭吾を始めとしたの有名作家の小説などがずらりと並んでいる。定番の本はどこにいってもあるよなあ。
しばらく店内を物色し、二冊の本を買って出た。
本屋を出てしばらく進むと、八丈ストアというスーパーに到着する。
酒と島寿司を2パック買って外に出る。島寿司は1パック1500円くらいでめちゃくちゃお得だった。
買い物を済ませて宿に戻る。
宿に戻ってからは、島寿司と酒を堪能しながら過ごす。
ご飯を食べたり携帯をいじりながら過ごしていると、酒が回ってきたのか眠くなってきた。
布団を敷き、横になると一気に睡魔が襲ってきて、気づいたら眠りに落ちていた。
スヤァ……
【二日目】さらば春よ
鳥のさえずりで目を覚ました。時刻は朝の6時。
窓の外を見ると、既に明るくなっていた。二度寝するにももったいないので、外へ散歩にでかけることにした。
カメラをもって、海沿いをゆっくり歩く。底土港から見える八丈富士は、朝日に照らされて薄ぼんやりと輝いていた。
海は、風が強いので大荒れしており、砂浜や岩に当たって白い泡を散らしている。
歩いていたら、有名な「廃墟になったホテル」にたどり着いた。
閉店して長いのか、建物は朽ちており、ホテルの入り口にある庭も雑草だらけだった。夜中だとさぞ不気味な様相となるのだろうが、早朝の優しい光にてらされているのもあって穏やかな印象を抱いた。
島内をぶらついて写真を撮っていたら、いつのまにか8時半くらいになっていた。
船の時間もあるので、来た道を戻りながら宿に戻る。
荷物をまとめてチェックアウトし、自転車を引いて港へと向かう。
自転車を分解して輪行袋に入れて、待合室へ。乗船までしばし待つ。
椅子に座ってのんびりしていると、自転車乗りのおじさんに話しかけられた。
おじさんは、私のように八丈島を一周するのではなく、八丈富士を自転車で上っていたらしい。八丈富士の登山口までは車両も通れるはすだが、まさか自転車で上っている人がいるとは……
おじさん曰く地獄だったらしい。そりゃそうだ。
しばらく、おじさんと談笑しながら過ごしていたら、待合室に乗船案内が流れ始めた。
おじさんと別れ、輪行袋を担いで船へと向かう。
乗船後は、自転車を手荷物置き場においてから、展望デッキへと向かう。
展望デッキの手すりに身体を預けて島を眺めながら、島を一周したときの景色を思い出す。
島らしいアップダウンがひたすら続く道に四苦八苦したが、展望台からの景色はどれも美しく感動的だった。島一周中は、澄んだ海とどこまでも続く水平線、亜熱帯特有の植相、雄大な八丈富士等々の八丈島の景色に終始魅了されっぱなしだった。
記憶の中の絶景に浸っていると、汽笛が鳴って船が動き出す。
少しずつ離れていく島を眺めながら、「ああ、また一つ旅が終わるのか」としみじみ思う。
また来ようと固く心に誓いながら、遠ざかる「春」を見つめ続けた。
おわり
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