雨と嵐の道東旅(屈斜路湖・摩周湖・阿寒湖)(前編)

2020年5月17日

 どうも、拓夏です。
 今回は、2019年の8月22~25日にかけて道東に行った時のことについて書いていきます。

 和琴半島湖畔キャンプ場にて。

旅の始まりは唐突に

 旅に出たい!!

 持病の「旅に出ないと死んでしまう病」を発症した私は、研究室内で実験をしながらそう思いました。
 季節は、7月ももう終わろうとしていた頃。すっかり気温も高くなって夏真っ盛りという時期。
 学生の夏といえば長い夏休みがお約束なのだけれど、私は大学院生(”研究室の奴隷”と読む)なので、そんなものはありません。
 だけれど、夏になったら遊びたくなるのは、人間という生き物に刻まれた本能です(そんなわけない)。そんなこんなで、夏の魔術と旅に出ないと死んでしまう病のダブルパンチを決められた私は、猛烈にどこかへ旅に出たくなってしまったのです。
 そういえば、実験や就活に追われていたのもあり、去年12月の沖縄のやんばる(いつかこのことも記そうと思う)以来、自転車で長期旅をしていません。これは、是非ともいかなければ。
 
 早速、3泊4日の休みを無理やり取り、旅の行先をどうしようかと考え始める。どうせなら、夏らしい場所に行きたい。
 あーだこーだと悩み続け、最終的に旅先の候補は北海道と能登半島の二択になりました。
 
 北海道といえば、夏になると自転車乗りだけでなくバイク乗りを始めとした様々な旅人たちが集う夢の場所です。ちなみに、昨年のこのころは美瑛・富良野付近を旅していました(いつかこのことも記そうt(ry)。昨年は、北海道の圧倒的なまでの広大さに蹂躙され、北海道の異名である「試される大地」の言葉の意味を身をもって体感した旅となりました。
 
 一方で、能登半島も夏という言葉が似あう場所です。特に、奥能登は豊かな緑に囲まれている上、広大な海を一望できる素晴らしい場所です。日本海を見られるというところもポイント。
 
 再びあーだこーだと悩み続け、予算と照らし合わせ、最終的に北海道にいくことに。
 理由はいろいろとあるけれど、一番の理由は去年のリベンジをしたいから。
 去年は、試される大地の名のもとに蹂躙され、精神的にも肉体的にも「北海道に負けた」と感じていました。それにくやしさを感じ、筋トレやランニングを増やしてきた結果、あの頃よりも断然強くなったという実感があります。その成果を確かめたかった。
 
 去年は道央に行ったので、今年は毛色を変えて道東にいくことに。
 道東といえば、網走監獄のある網走や自然豊かな知床半島、日本の湖の中でも屈指の透明度を誇る摩周湖、見る角度によって色が変わるといわれる不思議な湖のオンネトーを始めとした見所が沢山あります。
 北海道の中でも自然の豊かな道東は、自転車で巡るにあたって見所の沢山ある土地なのだけれど、自然が豊かなだけあって、前回行った美瑛や富良野よりもよっぽど「試される大地度」の高いエリアとなります。

 だけど、それがどうした!

 行きたいところは、どんなに難易度が高くても行きたくなってしまうもの。
 早速、行きたい場所と自分の力量と照らし合わせて、ルートを決めます。
 今回は3泊4日の旅。道東を楽しみつくすには、私の足だと時間が足りないので、前から行ってみたかった屈斜路湖・摩周湖・阿寒湖・オンネトーに的を絞り、そこを線でつないでルートを作っていきます。
 本当は、網走監獄や知床半島にも行きたかったのだけれど、今回は日数の都合上断念。また今度行こう。
 
 どうせ北海道にいくならキャンプツーリングにしようと心の中で決め、去年のくやしさをバネにして鍛えた体力をいかんなく発揮するため、私は道東行きの航空券をぽちったのでした。


さよならK-70、こんにちはD60

 (※まだ導入)
 前述の通り、北海道のリベンジに息巻いていた私なのだけれど、そんなときにとある事件が起こりました。

 カメラが故障した。
 
 いつも旅に連れて行っている一眼レフのPENTAX K-70が故障してしまったのです。
 慌てて購入店であるビックカメラに修理を依頼したのだけれど、修理完了の日がどうあがいても旅の出発に間に合わない。
 旅をするときは旅記録用に絶対に写真を撮るようにしているので、カメラの故障は一大事です。
 どうしよう……新しく一眼を買うかどうするか……
 そんな悩みをツイッターに垂れ流していたら、旧知のフォロワーで尊敬する写真家の一人であるメカトナカイさん(以後、メカさん)がサブ機であるCanon D60と12-24mmの望遠レンズを貸してくれるということに……!

 まじで感謝しかねえ……ありがとうメカさん……!

 借り受けたD60と望遠レンズを借り受け、ついでに50mmの単焦点レンズを追加で買って、なんとか旅の機材関連に関してはひと段落。

 と、思っていたら、またもや悲劇が。

 行く日、全日雨。

 泣いた。私の心の中に雨が降っていた。
 記事にはしてないのだけれど、実は最後にいった12月のやんばる旅も3泊4日のうち最終日以外雨という地獄の日程でした(なお、それが心にきていてしばらく旅にでていなかったのもある)。その次の道東旅も全日雨だなんて、もはや笑うしかない。
 初めて行った久米島旅も雨に打たれたし、私は雨雲を引き寄せる能力者かなにかなのだろうか。
 涙を流しながらメカさんに連絡する。自転車旅だと、雨が降ったら雨ざらしになるし、流石に人のカメラを許可なくそうするわけにはいきません。特に、今回はキャンプをしながら回るつもりなのでなおさら。

 私「旅の日、全部雨なんですけどカメラもっていっていいですか?(白目」
 メカさん「いいよ」

 神かこの人。

 ただ、注意点を一つ教えてもらいました。
 それは、カメラがどんなに雨にぬれてもビニールにいれてはいけないということ。ちなみに、カメラバッグ越しでもだめなのだとか。理由は、ビニールをかぶせると中が結露してしまい、カメラがずっと濡れている状態になってしまうから、らしいです。それなら、タオルかなにかをかけていたほうがずっと故障しにくいのだとか。
 やんばるで雨に打たれた時は、がっつりビニールをかけていたので、もしかするとK-70が壊れたのはそれが原因だったのかもしれない。
 あとは、カメラバッグに乾燥剤を沢山敷き詰めるといいとかいろいろなアドバイスをいただきました。ありがてえ……

 最終的に、カメラは乾燥剤を死ぬほど敷き詰め、タオルを敷いたカメラバッグの中に入れてもっていくことにしました。

 そんなこんなで、いろいろなハプニングに見舞われながらもなんとか旅の用意を済ませ、道東に飛び立ったのでした。


一日目:さよならD60(女満別~和琴半島)

 いつも通り、まとめていた荷物をもって最寄り駅から羽田空港へ移動します。
 羽田空港についてからは、第二ターミナルへ。
 いつもはスカイマークを利用しているので第一ターミナルに向かうのですが、今回はAIRDOなので第二ターミナルに向かいます。第二ターミナルは利用したことがないので、少しワクワクします。
 
 自転車の入ったバッグを預け、手荷物検査を終えて待合所へ。
 飛行機輪行は今回で3回目になるので、すっかり慣れてきました。
 待合所でぼーっとしながら待っていると、飛行機搭乗のアナウンスが流れたので車内へ。
 指定席に座り、飛行機が動き出すまで窓の外を見て過ごします。離陸前の空港の発着所を眺めるのが地味に好きだったりします。
 
 しばらくすると、飛行機がゆっくりと動き出し、あっという間に離陸します。ばいばい羽田空港。
 遠くなっていく景色を眺めながらぼーっとしていたら、いつの間にか眠りこけてしまったようで、気づいたら目的地である女満別空港に到着してしました(
 眠たい目をこすりながら飛行機を降り、預けていた自転車を受け取って外へ。
 
 外にでると、薄く雲に覆われた青空と吹き付けてくる横風がお出迎え。8月末とは思えない肌寒さを感じながら「ああ、北海道に来たんだなあ」としみじみと感じます。
 
 とりあえず、自転車を入れているバカでかい輪行袋(OS-500)をコインロッカーに預けるために、中に入っている自転車を組み立てます。
 いつもは通行人の邪魔にならないように壁際でひっそりと組み立てるのだけれど、女満別空港にはなんと自転車を組み立てる専用の場所があるので、そこまでいって組み立てることに。



 女満別空港にあるサイクルステーション(自転車を組み立てる場所)
サイクルステーションの立派さからも、自転車乗りへの待遇の良さが伺えます。

 空港の左端に佇むサイクルステーションは、「ここは本当に自転車組み立て専用の場所なだろうか?」と思うほどめちゃくちゃ立派な建物でした。最初見たとき、あまりの立派さに休憩所だと思って普通に通り過ぎた。
 いつもは端でこそこそ組み立てるのだけれど、こういう場所があると気兼ねなく組み立てられて楽だなあって思います。自転車乗り的にこういう場所が増えてくれると助かる。

 自転車を組み上げて、いつも通りコインロッカーにOS-500を入れ、補給食と水を買っていざ出発。
 今日の目的地は、女満別空港から50km近く南下したところにある和琴半島です。和琴半島には、道東に行ったら是非寄りたいと思っていたキャンプ場があったので、今から楽しみ。
 
 それと、和琴半島の道すがらにある美幌峠も目的地の一つ。自転車やバイクの雑誌には必ず登場するほどの場所で、今からどんな絶景が広がっているのか楽しみです。
 ワクワクした心のままに、まずは美幌峠を目指して女満別空港を飛び出します。


 女満別空港を出てすぐの道。花壇のベゴニアが綺麗。
 
 グーグルマップに従って走っていると、辺り一面が畑に覆われている明らかに農道っぽい道に突入

 畑の土が道に飛び散りまくっていて、もはや道がダート状態となっていました。25Cの細いタイヤでこけないようになんとか進んでいきます。



 農道の道。完全にダート。


 広大な畑。北海道にくると、畑のスケールが本州と違いすぎて慄く。

 農道をゆるゆると走りながら、北海道の大地の広大さを一年ぶりに実感します。
 帰ってきたんだなあ、と思いながら、広大な畑に向かってD60を構えて撮影していると、違和感に気づきます。
 撮影中に全然ピントが合わないのです。ピントを合わせようとするとカメラ内部からピントを合わせようとするときの「ジーーー」という音の後にバリアングルモニターにエラー文が吐き出されてしまい、撮影ができません。AFMF共にダメ。
 
 一気に顔面が蒼白になる。
 
 実はこの不具合は、カメラを渡された当日に既に発見していたものでした。不具合を発見した瞬間メカさんに連絡をし、一緒に対応策を考えていました。結局、MFでなら撮影できる(AFでもたまに撮影できた)し、風景撮影ならMFでも事足りるので、不具合を承知で持ってきていたのでした(メカさんには「こんなので大丈夫……?」ととても心配していただいた。優しいぜ……
 
 それが、まさかMFまで撮影できなくなるとは……。これから先どうしよう、とかいろいろと考えたけれど、とりあえず走るのが先決。持ち主であるメカさんに不具合が出たという連絡をして、再び走り始めます。ええい!なるようになれ!!(という事情で、今回の記事は写真少な目文章多めの構成でいくのでよろしくお願いします。)

 気を取り直して、広大な畑を横目に走っていきます。
 

 田んぼに囲まれながら走る。
 

 稲刈り後の田んぼ。8月末だからもう稲刈り終わってて、ほとんどの田んぼは土の色が見えて茶色かった。

 久々に走ったのもあって、足が少し重たい。自転車と身体を合わせるようにゆっくりと進んでいきます。目指せ、美幌峠!
 

 道の途中にあった川。北海道の川はどこも綺麗で驚く。

 しばらく走ると、田畑ばかりだった景色は移り変わり、沢山の木々に囲まれた林道へと突入します。
 緑の密度の濃い場所だからか、畑地を走っていた時よりも夏の緑の匂いが濃い。ああ、夏だなあ、となんとなく感じながらゆるゆると走っていきます。

 
 美幌峠までの道。なだらかな上りが続く。

 美幌峠までは、なだらかな上りが続いていきます。峠という名前からして、さぞかし上るのだろうと勝手に思っていたから拍子抜け。



 途中に落ちていた青のホクレンフラッグ。多分、ライダーさんが走っているうちに落としちゃったんだろうなあ。
 (ホクレンフラッグとは:ホクレンスタンドで毎年夏になると配っているフラッグ。全部で4種類あり、特定のエリアでそれぞれの色のフラッグを手に入れることが出来る。毎年絵柄が違うことや、北海道全域を旅しないと全種類コンプリートできないという難易度の高さもあってコレクション性が高く、これを集めに北海道にくるライダーさんも多い)。

 ひたすら走っていると、空が徐々に暗くなってきました。明るいうちに峠越えをしている予定だったので、少し焦り始めます。林道は灯りがすくないし、何よりもここは自然あふれる道東です。当然、野生動物も沢山いるし、夜行性の彼らは暗くなったら道路に出てくることも考えられます。
 そんな理由から、明るいうちに峠を越えたいのだけれど、空は私の焦りをあざけるように暗くなっていきます。気温も日中と比べ物にならないくらい寒くなってきて、もともと強かった風がさらにその強さを増していきます。吹き付けてくる風が、身体を冷やしていき、徐々に体力を奪っていきます。
 何か食べないと寒さでやられそうだと思いながら、必死にペダルを踏みます。せめて、日が完全に落ちるまでに峠はこえていたい。
 そんなことを思いながら、ペダルを踏み続けます。

 なだらかな上りをひたすら上っていたら、見えてきた!


 目的地の美幌峠!


 愛車と記念撮影。本当はもっときれいな場所で記念撮影するつもりだったけれど、寒いのと風が強いのとで断念した。

 なんとか、日が落ちる前に来ることが出来たけれど、この時点ですでに空が少し薄暗くなっています。早く進んだ方がいいのだけれど、なだらかとはいえずっと上ってきて足が疲労していたのと、おなかも限界だったので、飯を求めてレストハウスへ向かいます。

 レストハウスに入っていざ食事……と思っていたのだけれど、残念なことに食堂の営業はもう終わってしまっていました。というか、あと少しでレストハウス自体も閉店するらしい。なんということだ……
 食堂のおばちゃんに聞くと、食堂は終わっているけれどパックのおかずは残っているとのこと。とりあえず、空腹をなんとかしなければならなかったので、タコ天とカレーパンを購入します。
 食堂のおばちゃんが、閉店までなら食堂内で食べてもいいよと言ってくれたので、お言葉に甘えて、食堂内で買ったものを食べることにしました。

 おなかが限界だったので、タコ天とカレーパンをかじりつくように貪る。タコ天はこりこりしていておいしかったし、カレーパンもカレーが濃厚でおいしかった……!カロリーの足りない身体に染み渡る……
 
 私がもくもくと食べていると、おばちゃんはお水を持ってきてくれました。夢中になって飯にかじりついているのに何か思うところがあったのか、「お店閉めちゃうからどうぞ」と言って、売れ残っていたポテサラを揚げたおかずとゆでたトウモロコシをくれました。おばちゃん……!!
 おばちゃんの温かさに涙が出そうでした。


 タコ天とカレーパンと、貰い物のポテサラを揚げたやつ。おいしかった。

おばちゃん「これからどこまでいくの?」
私「和琴半島までです」
おばちゃん「そう。夜は鹿がでるから、暗くなる前に峠を下るんだよ」

 念のために熊がでるかきくと、おばちゃん曰くこの辺りはあまりでないのだとか。その代わりに鹿は頻繁に出るらしい。おばちゃんに「暗いとぶつかりやすいから、ぶつからないように気を付けて」といわれました。
 
 おばちゃんにお礼を言って、食堂を出る。
 外にでると、空はついたときよりもさらに暗くなっていた。吹く風は、さきほどよりも冷たい気がするけれど、飯を食べて温かくなったのもあってそこまで辛く感じませんでした。
 おばちゃんの忠告通り、暗くなる前に峠を下るべく走りだす。夜は動物の時間だし、下手なトラブルに合いたくない。
 
 美幌峠を超えてからは、下りにさしかかります。
 少し下ると、すぐに開けた景色が目の前に飛び込んできます。その景色に、思わず目を見張った。



 うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

 目の前に飛び込んできた、屈斜路湖の壮大さに思わず叫びだす。
 屈斜路湖に向かって飛び込んでいくような感覚が全身を包み込み、寒さとは違う震えが全身を駆け抜けた。
 
 すごい、絶景だ……
 
 日が暮れているし、曇っているから遠くまでよく見えないのだけれど、もし晴れていたらすさまじい絶景だったに違いない。

 途中で立ち止まって何度も写真を撮ってしまう。カメラを持つ手が寒さに震えたけれど、それでも構わず撮りまくる。そうさせるほどの絶景が目の前に広がっていました。



 下りからみえた景色。本当にすぐ隣に屈斜路湖が広がっていて、壮大な景色を全身で感じることができた。

 屈斜路湖の絶景を抜けた後は、森の中の道をひたすら下っていきます。この辺りは、人どころか車一台見かけないような田舎道。もしここで熊に襲われたらだれも助けに来ないなあ、なんて思いながら、寒さで震える手で自転車にしがみつきながら下っていきます。
 
 徐々に暗くなってくる景色に焦りながら下っていると、目の前に犬くらいの影が見えてきました。
 なんだ!?と思って目を凝らす。黄土色の毛並みに太いしっぽ。これは……

 キツネだ!!

 時速50km以上の速度で下っていたので一瞬しか見られなかったけれど、まぎれもなく人生で初めてキツネを見た瞬間でした。
 出会ったキツネは、臆病な猫のような表情をしていて、毛はパサパサして垂れ下がっているような子でした。キツネといえば冬毛のふわふわなイメージがあるけれど、夏毛だと結構さっぱりした感じ。
 人生初のキツネとの遭遇にテンションが上がり、暗くなってくる景色に対する不安な気持ちはすっかりなくなっていました。
 高揚した気持ちのまま、暗くなり続ける景色を駆け抜けていきます。

 ジェットコースターのような下りが終わるころには、あたりはもう暗くなっていました。灯りがほとんどない道を、自転車のライトだけを頼りに進みます。
 道に迷いながらも、山道を歩いてなんとかキャンプ場にたどり着きました。
 
 本日のキャンプ地は、和琴半島湖畔キャンプ場です。和琴半島に位置するこのキャンプ場は、屈斜路湖の壮大な湖面を眺めながらキャンプすることができます。料金が比較的安いことや、ランドリーや乾燥機が常備されていること、キャンプ場のを管理している温泉旅館である「湖心荘」の温泉を日帰り温泉で利用できることなどから、バイク乗りを始めとした旅人に人気のキャンプ場なのだとか。
 
 キャンプ場の営業時間を過ぎていたので、キャンプ場の管理を行っている湖心荘へと直接向かいます。(なお、時間が過ぎることは前日に連絡済み)
 湖心荘は、キャンプ場の入り口付近にあったのですぐに見つけることが出来ました。早速、受付へ。受付は、前日に連絡していたのもあってスムーズに終わりました。
 時間も遅くなってしまっていたので、早速、湖心荘の日帰り温泉を利用しようとしたところ……

宿のおじさん「ごめんねー。今日は、子供たちに貸し切っちゃってるんだ」
私「(白目」

 まさかの、温泉なし
 
 おじさん曰く「いつもならこの時間にやってるんだけどねー」とのことだったけれど、今日は例外的に空いてないのだとか。とほほ。
 この温泉をあてにしていたので、今日のお風呂がない……
 どうしようかと焦っていると、おじさんが付近にある温泉を紹介してくれました。その名も、「和琴温泉」。
 和琴温泉は、地元の人が管理を行っている天然の混浴露天風呂なのだとか。完全にオープンな天然温泉だからシャワーとかはないらしいけれど、そのぶん無料で入れるらしい。
 一縷の望みをかけて「和琴温泉」とやらに向かおうと決意します。

 温泉へ行く前に、テントの設営をしにキャンプ場へ。
 キャンプ場は家族連れだけじゃなく、ライダーやチャリダーでにぎわっていました。ここは、バイク・自転車専用サイトもあるくらいなので、ライダーやチャリダーに人気なのかもしれません。私が来たときは、何かの会で集まっているのか、子供たちがBBQや焚火をしていました。
 そんな様子を横目で見ながら、屈斜路湖の湖面近くにテントを設営します。あたりが暗いのもあって、目の前の屈斜路湖は大きくぽっかりとあいた穴のように見えました。朝になったら景色が見えるだろうか。
 
 テントを設営した後は、タオルをもって和琴温泉へと向かいます。石鹸とかで洗い流すのは禁止らしいので石鹸はおいていくことにしました。湖心荘のおじさん曰く、「先が見えないくらい暗い」らしいので足元を照らすために自転車のライトを持っていくことにしました。
 
 和琴半島までの道は、おじさんの言う通り先が全く見えない暗さでした。行くまでの道にはほとんど灯りがなく、手元のライトだけが生命線でした。もしライトをもってきていなかったら、本当に何も見えなかった。
 真っ暗闇の中を歩いていくと、何やらあったかい空気の感触が頬をかすめました。その感触に導かれるままに歩いていきます。
 
 しばらくして、湯気が濃いところにライトを向けると、そこには池のようなものがありました。池のようなものから立ち上る湯気は、ライトに照らされて白く輝いていました。
 どうやら、目の前にあるのが和琴温泉のようです。まじでふきっさらしの温泉じゃねえか。
 ただ、今までの人生でふきっさらしの天然温泉を見たことがなかったので 、地味にテンションが上がる。これがほんとの露天風呂なんだなあ……

 温泉の近くを見てみると、着替え場のような建物を発見します。ライトで中を照らしてみると板が少し張られただけの簡素な造りでした。ドアすらない。
 うーん、流石にこれでは入れません。水着もバスタオルのような大き目のタオルも持っていないので、あきらめるしかないようです。
 ただ、なにもしないで帰るのももったいないので、足だけ浸かることにします。

 靴を脱いで、池の淵に腰かけて足を入れます。ぽかぽかとした丁度いい温度のお湯が心地よい……
 一日頑張ったふくらはぎから疲労が解けていきます。ああ、よい……
 しばらくの間、じんわりとした温かさに心が奪われていたのだけれど、洗濯とか明日の準備があることを思い出し、名残惜しい気持ちのまま足湯から上がります。
 暗い道を、手元のライトを頼りに戻っていきます。足湯をしたからか、ふくらはぎが来た時よりも軽い気がしました。

 テントに戻った後は、濡れタオルで全身を拭きます。温泉には入れなかったけれど、汗だけは拭いておきたかった。
 そのあとは、キャンプ場に備え付けのランドリーで洗濯したり、美幌峠のレストハウスでおばちゃんからもらったとうもろこしやポテサラを揚げたやつを晩飯代わりに食べたり、youtubeやツイッターを見たりして過ごしました。
 
 そんなこんなで、ゆったりと時間が過ぎていく。携帯の時計を見ると、そろそろ寝る時間になっていました。
 
 明かりを消して、寝袋に深く潜り込む。
 
 天気予報によると、明日から雨らしい。雨の中で走り切れるのかという不安と、これから待つ景色に対するワクワク感を抱きながら眠りに落ちた。
 スヤァ……


二日目:大雨と極寒の摩周湖(和琴半島~阿寒湖)

 アラームの音で目を覚ます。時刻は朝6時。
 目を開けた瞬間、黄色い天井が目に飛び込んできて驚きましたが、同時に北海道にいるのだということを思い出します。
 テントの天井に水滴が無数にうつっているのを見て、雨が降ってきていることに気づきました。
 今日の午前中は雨が降らない予報だったはず……と思いながら外を見ると、ぱらぱらと雨が降っているのが見えました。
 私の隣にテントを設営していたカップルは、雨がひどくならないうちに撤収したいのか、すでに撤収作業を始めているようでした。これは、私も早めに撤収するべきかもしれません。
 そんなことを思っていたら、雨は次第に強くなってきました。携帯で雨雲レーダーを確認し、雨が弱まるのをしばし待ちます。
 なりやむまで待っていようと思っていたのだけれど、いつまでも雨が弱まる気配がなかったので、仕方なく雨の中撤収作業をすることに。テントは、しかたなく 濡れたままフロントバッグにいれました。
 カメラバッグ以外の荷物は、雨に濡れないように40Lのごみ袋をかぶせます。
 
 次第に強くなるばかりの雨脚をみて、ルートを大幅に削ることを決意。当初は、屈斜路湖沿いに北上してから摩周湖に行く予定でしたが、寄り道せずに摩周湖を目指すことにします。
 とりあえず、最初の目的地である摩周第三展望台を目指すべく、自転車で走りだします。

 走り始めてから、さらに雨は勢いを増して降り始めます。雨だからか、気温は北海道の夏とはいえ信じられないくらい低く、肌寒い。まるで晩秋のような気温に、思わず身震いします。
 長袖は、荷物の積載限界もあって薄いポケッタブルパーカーとレインウェアしか持ってきていません。
 前回の北海道旅で、十勝岳のふもとにある白金のキャンプ場で野営したときも尋常じゃない寒さを感じましたが、あの時はレインウェアでなんとかなっていました。前回の経験から、「レインウェアあればなんとかなるべ」と思っていた私は、吹き付けてくる冷たい風に凍えながら、自分の認識が甘かったと少しだけ後悔します。
 それに加えて、長い間雨に打たれすぎて、レインウェアの中に雨が浸透してきて、さらに寒くなります。
 雨と風が濡れた体に強く打ち付けてきて、体温が徐々に下がっていきます。暖を取るためにひたすらペダルを踏み続けますが、自分が発熱する熱量よりも寒さの方が勝って、全然温かくなりません。

 、凍える……(白目
 
 徐々に体が冷えていく感覚を感じながらそう思った時、目の前にセコマが見えてきました。藁にもすがる思いで思わず駆け込みます。
 コンビニの中は、雨も風もないので少し暖かいような気がしました。
 
 何か暖を取れるものがないかと探してみると、温かい飲み物コーナーがありました。真夏に温かい飲み物があるとは、流石セコマ。
 温かい甘酒と、ついでに補給食も調達してからセコマを出ます。
 甘酒にしがみついて暖を取っていると、すこしだけ体が温まります。飲むと、少しだけ冷めた甘酒の甘みが体に染みていきます。うめえ……
 暖を取って少し元気になったので、再び、摩周湖を目指して走り出します。

 再び、ずぶ濡れになりながら摩周湖を目指します。摩周湖へ行く道は、ひたすら上りでした。それに加えて、冷たい雨が正面から直に体をたたきつけてきて、ただでさえ苦しい上りがさらに苦しくなる。
 さきほど甘酒でとった暖はすっかり消えて、再び全身が冷え始めます。寒さで体力が奪われていくのを感じながら、ひたすら上っていきます。


 摩周湖へ行くまでの上り。

 上る運動で発生した熱で体温を保ちながら、少しずつ上っていきます。


 上っているときに見えた景色。木々の間を白い雲のようなものが流れていて幻想的だった。

 たまに上るのに疲れて歩いたり、ポケットに突っ込んでいたカロリーメイトを食べながら、ゆっくり進んでいきます。
 雨は相変わらず降り続けていて、私の体を冷やしていきます。標高が上がっているからか、寒さは進むたびに増している気がしました。
 寒さで自転車を握る手の動きが、ブリキの人形みたいにぎこちなくなってきて、たまに立ち止まって息を吹きかけて暖を取ります。
 そんなこんなで、寒さに震えながら何とか立ち止まらずに進んでいきます。
 あと少し、あと少し……

 ひたすら進んでいると、何やら建物のようなものが見えてきます。
 目的地である摩周第三展望台かと思って描け寄ってみると、摩周第一展望台と表記されていました。
 目的地ではないことに少しがっかりしつつ、第三展望台の位置を確認するために地図アプリを開きます。
 地図アプリで場所を見てみると、第三展望台は、第一展望台からさらに3kmほど進んだところにあるようです。

 この寒さの中、さらに3km進むのかと思うと気が遠くなります。
 これから行く道を見ると、地面は雨の水しぶきで白く霞んでおり、先も見えない状態です。

 よし、やめよう。
 
 寒さと体力の残量と時間的な余裕を考えると、ここまでにしたほうがよさそうです。
 それに、この雨だと摩周湖も見られそうにないし、どこで見ても同じ気がする。
 
 そんなこんなで、第三展望台にいくのをあきらめて、レインウェアを脱いで自転車にかけて、第一展望台のレストハウスの中に入ります。
 レストハウスの中は、建物の中とは思えないくらい寒くて、雨風しのげる以外は外と変わらないんじゃないかと思いました。
 とりあえず、何か食べないと凍え死にそうだったので、一番メニューで目立っていた弟子屈味噌ラーメンを注文します。


 お昼ご飯の弟子屈味噌ラーメン。

 弟子屈味噌ラーメンは、普通の味噌ラーメンよりも胡椒と生姜が効いていて、凍えた身体をぽかぽかと温めてくれました。
 少し濃いめの味付けも、カロリーの足りない身体に丁度良くておいしい。
 暖と塩分をとるために汁まで全部飲み干すと、生姜のおかげか、すっかり冷えていた体が温まりました。

 温まった後は、展望台から摩周湖を見に行きます。
 どうせ雨だから見えないだろうけど、せっかくここまで来たんだし、その一端くらいは見ていきたい。


 霧の摩周ならぬ雲の摩周。

 自動ドアを出て目の前の展望台に行くと、予想していた以上に何も見えない摩周湖が広がっていました。
 摩周湖は、別名「霧の摩周」と呼ばれるくらい霧に隠れて全貌が見えないことで有名ですが、まさかここまで見えないとは……
 霧というか、もはや雲の摩周になり果てている目の前の摩周湖を見てなんとなく残念な気持ちになります。
 苦労してここまで上ってきた甲斐がないなあ、と思いつつ、これも旅かとあきらめる。
 今度こそは、晴れているときに来たいものです。
 
 とりあえず、展望台は雨と風のオンパレードで寒かったので、早々にレストハウスに引き返します。

 さて、目的のものも見たし、今まで来た道を下って阿寒湖方面へ向かうことにします。
 ただ、この寒さのなか何もしないで出ていくと死にそうだったので、レストハウスの中で暖が取れそうなものを探します。
 夏だし流石にないかと思っていたら、なんと自動販売機に温かい飲み物を発見。
 
 いや、8月に自動販売機に温かい飲み物があるってなにごとだよ。
 
 ともかく、これから先長い下りをこなす身としてはありがたかったので、温かいお茶を2本購入します。これで少しはしのげるといいなあ……

 温かいお茶を1本飲んで、もう一本をレインウェアのポケットに入れる。さて、この頼りない寒さ対策でどれくらい持つだろう……
 上りも大概だったけれど、上りですら寒かった道を今から下ると思うとぞっとします。
 ただ、次の目的地である阿寒湖に行くためにも、立ち止まるわけにはいきません。

 ええい、ままよ!と心の中で叫んで走り出す。こういうのは覚悟決めていったほうがいい。

 雨に打たれながら長い下り坂を下っていきます。
 下りは、予想通りの地獄。濡れた体に容赦なく冷たい風が吹きつけてきて、上りの時以上に体力が奪われていきます。
 つけていたグローブが夏用の指ぬきのものだったのもあって、手は氷のように冷たくなっていきました。
 下りはスピードが出るので、スリップしないように気を付けながら走る。手は、途中から寒さでほぼ感覚がなくなっていて、動かそうとしても硬くなって思い通りに動かなかったけれど、気合で何とか握る。
 それなりの力でブレーキを握り締めていたけれど、それでも時速40kmくらいは出ていた。今スリップしたら完全にお陀仏だ。
 生きた心地がしないまま下っていく。だけれど、不思議と心は恐怖心に支配されておらず、それどころかこの状況を楽しんですらいた。
 ふと、頭上の電光掲示板を見ると、「ただいまの気温は12℃」と表示されているのが見えて、思わず笑った。

 真夏なのに12℃ってどういうことだよ!

 と、心の中で突っ込む。通りで寒いわけだわ。
 本州で今の時期だと、経ってるだけで滝のような汗が流れるくらい暑いというのに、ここは同じ日本という国にあるにもかかわらず、初春と同じ気温だとは。流石、試される大地……!

 ハンドルにしがみつきながらなんとか下りを終える。とりあえず、冷え切った体を温めるためにセコマに向かいます。
 セコマでは、温かい甘酒とカロリーメイトを購入。温かい甘酒で応急処置的に感覚のない手を温めます。生き返る……
 しかし、芯から冷えている身体を甘酒だけで温まりきることはできません。
 阿寒湖へ向かう前にどこかで温まっていった方がいいと思い、ふとこの付近に無料で入れる足湯があることを思い出します。
 地図で調べると、現在の地点からそう遠くない場所にあったので、ひとまずそちらに向かうことにします。

 足湯のある場所は、「道の駅 摩周温泉」という場所です。ここでは、摩周温泉から引かれている足湯を24時間利用することが出来ます。なお、北海道の道の駅では、唯一足湯を楽しめる場所だったり。

 
 足湯の外観。


 足湯。これが24時間無料なのはお得すぎる。

 私が「道の駅 摩周温泉」につくと、雨宿りをしているライダーの方と林間学校かなにかで来ているであろう子供たちでにぎわっていました。
 空いている部分に腰かけ、足湯につかります。


 足湯に入ったときの写真。冷えた体には心地よかった。

 足湯につかると、冷え切った足が少しずつほぐれていきます。ああ、これは良い……
 末端が温まったからか、先ほどまで感じていた芯から冷えるような寒さは和らいでいきました。

 足湯で暖を取りながら、今後のルートを確認します。
 今日、野営する予定の阿寒湖畔キャンプ場は、ここからさらに40km走ったところにあります。
 しかも、地図を見る限りだと、その間にコンビニや道の駅はないようです。
 それは、この寒さの中、休憩所一つない道を雨に打たれながら走らなければならないということを意味していました。
 雨は、相変わらず強く降り続いていて、弱まる様子は一切ありません。この雨の中をずっと走ると思うと、気が遠くなるような思いがします。
 少しだけ、この地点に留まろうか迷います。今いる場所は、摩周温泉の近くで温泉宿がそれなりにあるため、泊まるところには困らないでしょう。
 ただ、今ここで留まる選択をしてしまうと、当然ながら翌日に走る距離が延びます。明日も天気は雨になると予想されており、今日よりも降る可能性だって考えられます。
 身体はもう走りたくないといっており、頭は明日のためにも走った方がいいと言っている。
 なんだかんだでいろいろと悩んだ結果、当初の予定通り、阿寒湖畔キャンプ場を目指すことにしました。
 尻込みしているときほど、立ち向かわなければなるまい。

 雨が弱まったのを機に、「道の駅 摩周温泉」を出発します。足湯のぬくもりを名残惜しく思いながら、愛車に乗って走り出します。
 さて、また我慢大会の始まりだ。

 ずぶ濡れになりながら、40km先の阿寒湖を目指してひたすら走ります。
 この辺りは、見渡す限り森しかない山道でした。人里やコンビニはもちろん、自動販売機すらない完全に無人のエリア。
 せめて、自動販売機はあるだろうとおもっていましたが、甘い考えだったようです。道東は、補給する場所がないと聞いていたけれど、ここまでとは。

 雨脚はさらに増してきて、土砂降りの雨が突き刺すように体を打ち続けてきます。
 雨の中無心で走っていると、半分くらいきたところでなんの悪夢か、果てしない上りが目の前に現れます。
 まさに、泣きっ面に蜂という状況。
 勾配はそこまでではなく、それなりの上りがひたすら続くいるような感じでした。それでも、それなりの上りがひたすら続くのは、それはそれで辛い状況でした。
 
 試される大地、試してくれるなあ!
 
 それにしても、初心者にハードモードすぎるような気がします。初心者だから、もう少し優しくしてほしい。

 ひたすら上っていると、トンネルを発見します。雨の中休まず走っていたので、トンネルの邪魔にならないところで一休みします。


 上りの途中にあったトンネル。

 ひたすら雨が打ち付けてくる中で休憩はできなかったので、雨がしのげるトンネルだけでもあってよかった。
 ポケットの中に入れてあるカロリーメイトを食べる。この状況でハンガーノックになるのが一番まずいので、カロリーはこまめに取っていきます。
 ついでに、ずぶ濡れになったレインウェアを脱いで絞ります。もうすっかり濡れてしまっているから気休めでしかないけれど、やらないよりはまし。
 
 レインウェアを貫通して服に雨がしみこんで寒い。たまに手に息を吐いたり、両手をすり合わせたりして暖を取っているけれど、気休めでしかなく、徐々に体温が奪われていきます。
 
 寒さで身体が冷え込むのも問題だったけれど、それ以上に心配だったのはカメラでした。
 特に、今回は借りたカメラだったのでなおさら。メカさんには、雨の中使うことも許可していただいているし、なんなら生き物撮影をしているメカさんの方が私よりもよっぽど過酷なフィールドで使っている可能性もある。だから、ちょっとやそっとじゃ壊れないとは思っているけれど、それでも借り物だから心配してしまいます。
 カメラバッグの外面はぐっしょり濡れていて、雨水がしたたっています。タオルと乾燥剤で対策はしてきているけれど、実際どの程度効いているのかわかりません。
 
 それでも、今は走り続けるしかなかった。
 
 トンネルをいくつか通過し、冷えた身体を引きずりながらひたすら走る。
 

 雨脚の強くなっていく山道。雨で先が白く霞んでよく見えない。

 土砂降りが身体を打ち、上りがひたすら続くような状況だったけれど、不思議とネガティブな気分にはなりませんでした。
 確かに、身体は寒いし疲れているけれど、それでも、「歩いていればいつかたどり着く」と冷静に考えている自分がいました。一周まわって冷静になったのか、日々のトレーニングの成果なのかわからないけれど、旅人としてなんだか成長しているような気がする。

 びしょ濡れになりながらひたすら上っていると、同じくびしょ濡れになったライダーさん三人衆が私の横を通り過ぎていくのが見えました。ライダーさんたちは、3人とも私に向かって左手で親指を上に突き上げるようなサインをしていました。いわゆる、ライダー同士の挨拶である「ヤエー」ってやつです。
 一人目がヤエーしてくれた時は、上りが辛いのと雨で身体が鈍っていて動かなくて返すことができず、二人目の時も同じような感じで返せず、三人目のヤエーでなんとか私もヤエーで返すことができました。
 北海道を走っていると、こういう風にライダーさんに「ヤエー」してもらえることが多くてうれしい気持ちになります。
 乗っているものは違うけれど、同じ「旅」ってものでつながっている仲間なんだよな、としみじみ思い、心があったかくなりました。

 ライダーさん達に元気をもらって、少しだけペダルに込める力が強くなる。
 さあ、あともう少しだ!

 ひたすら続く上りを越えると、目的地のキャンプ場がある阿寒湖温泉街へと到着します。
 阿寒湖温泉街は、今まで走っていた何もない山道が嘘のように賑わっていました。それもそのはず、阿寒湖温泉街は、阿寒湖や温泉、アイヌの文化に触れることができるアイヌコタンなど、様々な観光地が固まっている所なのです。
 そんな景色を横目に、今日のキャンプ場である阿寒湖畔キャンプ場を目指します。

 キャンプ地は、阿寒温泉街と道路一つ挟んだ先にあったのですぐに見つけることが出来ました。丁度、阿寒湖アイヌシアター「イコロ(なお、ロは小文字」の真正面に当たる場所。
 自転車を立てかけ、びしょ濡れのレインコートを自転車にかけてから、キャンプ場の受付に向かいます。
 
 キャンプ場の受付に行くと、ずぶ濡れになっている俺を見た受付のおばちゃんにめちゃくちゃ心配されました。
 その流れで、おばちゃんとの雑談が弾む。昨日キャンプ場に来ていたライダーさんは阿寒温泉の方に避難しただとか、俺以外にも神奈川県から自転車旅をしている人たちが来ているだとか、受付所の休憩所で雨宿りしている外国人の方のこととか、いろいろととりとめのない話をした。
 なんにせよ、この雨で多くの旅人が大変な目に合っているようだった。おのれ雨……!
 
 おばちゃんは、ずぶ濡れになっている俺をずっと心配してくれていて、キャンプ場の説明も早々にお風呂に入ることを勧めてくれた。
 受付所にはシャワー室とコインランドリーがあるのでそれを利用しようと思っていたのだけれど、受付時間の閉館時間が迫っているのもあって、もうそろそろ閉めてしまうらしい。
 時間的に、シャワーは浴びられるけどコインランドリーは使えそうにありませんでした。どうしよう……
 
 そのことを話すと、おばちゃんは徒歩で15分くらいのところにある「まりも湯温泉」という銭湯を教えてくれました。
 少し遠いけれど、ここなら温泉も入れるしコインランドリーも使えるとのこと。
 
 まりも湯温泉は、ツーリング雑誌でもよく紹介されている温泉だったので、名前だけは知っていました。この辺りで名物となっている銭湯で、ライダーさんを始めとした旅人が良く利用するのだとか。
 気になっていた場所でもあったので、これはなにかの縁だと思い、勧められるままにまりも湯温泉に行くことにしました。
 
 おばちゃんはどこまでも親切で、温泉だけじゃなく、アイヌコタンのことやご飯の食べられそうなコンビニの場所なども教えてくれました。迷わないように、観光地図に目的地の印をつけてくれたりしました。
 キャンプ場でここまで親切にされたことがなかったので、思わず感激しました。

私「親切にしていただいて、ありがとうございます。助かります」
おばちゃん「何言ってるのよ。これが私の仕事だから当然だわ」

 おばちゃんは、本当に当たり前のことだといわんばかりにそう言っていて、「ああ、このおばちゃんすごいかっこいいな」と思いました。
 キャンプ場の受付の仕事って、多分こんなに人に親切にしなくてもいいはずです。もっと、最低限の仕事だけしててもお給料はもらえるし、いままでいってきたキャンプ場にもそんな風な対応をしているところはありました。
 だけれど、おばちゃんは、私を始めとしたキャンプ場の利用客が楽しめるように、自分の持っている最大限の力をもって仕事をしているのだと思いました。当たり前のことだけれど、それを当たり前にできることってすごいと思う。そして、今の私はそのおばちゃんの仕事に救われていました。
 私も、こんな風に当たり前の仕事を当たり前に「自分の仕事だから当然だ」といえるような大人になりたいなあ。

 温泉に行く前に、テントを設営することにします。
 キャンプ場内に東屋があったので、そこに設営することにしました。おばちゃん曰く、この東屋は雨が防げないとのことだったけれど、ふきっさらしよりいくらかまし。
 東屋には先客がいるようだったので、邪魔にならない場所にテントを立てます。こういう時に、一人用テントのコンパクトさが役に立ちます。
 
 テントを設営してから、カメラバッグの中を確認する。
 今まで雨ざらしできたので、中がどうなっているか少し不安。
 恐る恐る開けてみると、中身は無事でした。バッグの中に敷き詰めた乾燥剤が水けを吸い取ってくれているからなのか、タオルとカメラはあまり濡れていませんでした。よかった……
 とりあえず、借り物のカメラに何事もなくて安心します。

 カメラの無事を確認した後は、テント内に荷物を詰めてから、まりも湯温泉へと向かいます。

 道路を越え、アイヌコタンを抜けて阿寒温泉街を進みます。
 アイヌコタンの民族的な独特な佇まいの建物が並んでいるエリアと阿寒温泉街の温泉街然としたエリアが隣同士にあるのはなんとも不思議な光景でした。隣り合ってるのに印象が全然違って面白い。

 街並みを見ながら歩いていると、まりも湯温泉に到着します。
 まりも湯温泉は、古き良き昭和の銭湯のようないでたちでした。引き戸を開けて入ると、銭湯特有の少し湿気た生暖かい空気が頬をかすめた。
 銭湯の入り口の料金所にはおばちゃんが一人いました。
 受付にいたおばちゃんは、ずぶ濡れで入ってきた私を見るなり驚いているようでした。

おばちゃん「どこからきたの?」
私「屈斜路湖のあたりから摩周湖を通ってきました」
おばちゃん「まあ、そんなところから雨に濡れてきたのかい! バイクかい?」
私「いえ、自転車です」

 私が自転車できたというと、おばちゃんはさらに驚いた顔をしていました。そのあと、懐かしそうに「最近、自転車も増えてきたねえ。昔はいたけど、しばらく自転車は見なくなっていたんだけどねえ」といっていた。
 おばちゃんのいう昔というのは、きっとランドナーでの旅が全盛期だった時代のことなのでしょう。ランドナーでの自転車旅が流行ったのは何十年も前だから、随分昔の話です。
 世間話も早々に、おばちゃんから「早く温まりなさい」と言われ、中に案内してもらいました。
 
 暖簾をくぐって脱衣所に入ると、おばちゃんは温泉の効能などを丁寧に教えてくれました。

おばちゃん「この温泉は、毛穴をぎゅっとする効果があるから、入りたてはきついかもしれないけど、我慢して入ってね。」
私「なるほど、わかりました」

 おばちゃん曰く、ここの温泉は一度入ったら一年は元気でいられると評判なのだとか。
 おばちゃんは温泉を手で触ると、満足気に「うん、ちょうどいい湯加減だわ」と言っていました。

 おばちゃんが脱衣所から出た後、風呂場に入ります。
 早速、身体を洗ってから湯船につかります。熱めのお湯が身体にじんわりと染み渡っていく……
 おばちゃんの言う通り、毛穴がぎゅっと締まる感覚がありました。でも、疲れた身体だと逆にそれが気持ちいい。
 まさに、極楽といった心地。80kmほどある道を雨に打たれながら走ってきた甲斐があった……
 あまりに心地よすぎて、温泉に溶けてしまうんじゃないかと思うくらいふやけていました。このぬくもりから離れがたくて湯船から出ることが出来ない……
 
 湯船のなかでくつろぎつつあたりを見渡していると、お風呂の淵に木でできた球が並んでいるのに気づきます。
 この球は、「まりも」と呼ばれており、まりも湯温泉のマスコット的な存在として知られているものでした。阿寒温泉を象徴している阿寒湖は、まりもの名産地なので、それをかたどってまりもと名付けているのだとか。
 まりもは、野球ボールくらいの大きさのものから、ハンドボールくらいある大きなものまでありました。
 私は、一番形のいいハンドボールくらいの大きさのまりもをお湯に浮かべて遊んでいましたw
 
 温泉でしばらく温まった後、銭湯内にあるコインランドリーに濡れた服を洗濯します。待ち時間が30分ほどあったので、またお風呂につかりにいきます。
 ここの温泉は、一度入ると病みつきになる。結局、1時間くらいははいっていた。
 
 洗濯が終わるを見計らってお風呂から上がる。洗濯ものを乾燥機に突っ込んで、またしばらく待ちます。
 温泉ですっかり温まった身体は、先ほどまで感じていた寒さなど忘れたようにぽかぽか温まっていました。
 
 ぼんやりと乾燥がおわるのを待っていると、おばちゃんが牛乳とお菓子を持ってきてくれました。
 それをつまみながら、おばちゃんと他愛のない話をした。
 おばちゃんは、温泉にくるお客さんの話やご家族の話をして、私は大学でやっている研究のことなどを話しました。
 とりとめのない話を、ぽつぽつと話す。
 銭湯の中には、独特な穏やかな時間が流れていた。うまく言えないけれど、そんな雰囲気のなかで、おばちゃんと二人で話していると穏やかな気持ちになりました。初めてあった人と初めて来た場所で話しているのに、ここはなんだか懐かしい感じがして心地よい……

 おばちゃんとの話がひと段落して、ソファーでくつろいでいると、男湯の方から出てきたおじさんが私に話しかけてきました。

おじさん「女湯のほうって、まだだれかいますか?」
私「確か、二人くらいいたような気がしますよー」
おじさん「ああ、やっぱりか……」

 なんだかおじさんが浮かない顔をしていました。どうしたのかと聞いてみると、どうやらその二人はおじさんの奥さんと娘さんらしく、その二人が車の鍵を持っていて車内にものを取りにいけないのだとか。
 暇だったのもあって「鍵、預かってきましょうか?」というと、ぜひお願いしますと言われたので、女湯の方へ。
 浴室のドアをノックして開けると、おじさんの奥さんと娘さんと思しき人がいました。事情を話すと、鍵を渡してくれたので、それをもっておじさんのところへ。
 おじさんは、嬉しそうになんどもお礼を言ってくれました。
 
 そんなこんなしていたら、洗濯物の乾燥が終わっていたので取りに行きます。
 ついでに、もう一度温泉に浸かります。ああ、やっぱりここのお湯はいい……
 
 身体も温まったので、キャンプ場に戻ることにします。
 銭湯から出るとき、おばちゃんに「また来るからね」といいました。次来られるのはいつになるかわからないけれど、おばちゃんが元気なうちにまた来たいと思いました。まりも湯温泉は、そう思えるような、人情もお風呂もあったかい銭湯でした。

 銭湯から出ようとしたら、先ほどのおじさんに声をかけられました。お風呂から出て家族で団らんとしているときに、私をみかけて声をかけてくれたようでした。
 先ほどのおばちゃんとの話を聞いていたのか、「研究ってなにやってるの?」と聞かれたので、簡単に自分の研究のことを話したりしました。そこから話が広がって、また他愛のない話をしたり。特に、北海道の寒さについての話は盛り上がった。やっぱりみんな寒いって思うんだなあ。
 どうやら、このご家族は千歳でキャンピングカーを借りて旅をしているのだとか。キャンピングカーで旅ってロマンあるなあ……!私もいつかやってみたいものです。

 おじさん一家は、話しかけてくれたおじさんを始めとして、みんな気さくで温かい方々でした。
 お互い、風邪をひかないように気を付けましょうといって、ご家族と別れ、今度こそ銭湯を後にしました。

 外は相変わらず寒かったけれど、まりも湯温泉の効果なのか、不思議と身体はぽかぽかしていました。
 キャンプ場に戻る前に、いろいろと買い足すものがあったのでコンビニへ向かいます。
 帰り道にセコマとローソンがあったので、そこで晩飯とサッポロクラシックと明日用の補給食を購入。それと、テントの下に敷く用にバスタオルとタオルを買えるだけ買いました。
 バスタオルとタオルは、なぜか品薄でした。なんでだ……
 買い物も終わったので、キャンプ場へと戻ります。外の空気は日中よりもさらに低くなっていて、温泉で温まった身体が徐々に冷えていきます。
 テントに戻るころには、すっかり体が冷え切っていました。
 
 テントに戻った後は、雨で浸水しているテントにバスタオルを引いて水けを取ります。テントの下は大分濡れていたけれど、バスタオルを敷いたら気にならなくなりました。
 
 バスタオルの上にマットと寝袋をセットしてから、コンビニで購入したサッポロクラシックを片手に、キャンプ場のある場所へ向かう。
 東屋を出て、炊事場の手前にある建屋に入る。建屋の中は固定式の長机と長椅子が置かれていて、その間を温泉が流れていました。そう、足湯です。
 この阿寒湖畔キャンプ場は、北海道で唯一、天然温泉を引いた足湯を堪能できるキャンプ場なのです!
 
 建屋の中に入ると、どうやら先客がいたようです。向かい側の椅子にシュラフにくるまって芋虫みたいになりながら寝ている人が二人いました。足湯にある長椅子は4つあったのだけれど、そのうちの二つは芋虫に占領され、入り口側にある椅子の一つにも何やら荷物が置いてありました。見たところ、向かい側で芋虫になっている人たちのお仲間の荷物っぽい。
 芋虫たちを起こさないように、空いている椅子に腰かける。足湯で温まりながらゆったりと一人で一杯やろうと思っていたのだけれど、こんな寒い日に足湯が埋まらないわけがないよね……
 
 気を取り直して、足湯に足を入れる。お湯は、まりも湯温泉と似たり寄ったりの熱さでした。冷え始めた身体がぽかぽかと温まっていきます。
 のんびりと足湯を楽しみながら、サッポロクラシックを開ける。プルタブを倒すと、炭酸の抜ける小気味のいい音がした。ビールを口に含むと、爽やかな麦の風味が口いっぱいに広がっていく……

 ああ、極楽極楽……

 自転車旅をしていて幸せな瞬間っていくつもあるけれど、そのうちの一つが地ビールを飲んでいる時だと思う。たまらないぜ。
 
 私が至福のひと時を楽しんでいると、隣席の主が戻ってきたようでした。隣の席の子は、大学生くらいのかわいい女の子でした。私がいることに少し驚きつつも、荷物を置いていた椅子に腰かけて足湯を楽しんでいました。
 私はコミュ障なので、特に話しかけることなくビールを飲み続けます。
 しばらくすると、隣の女の子が外を見ながらそわそわし始めました。何事かと思って、女の子の視線の先を見てみます。
 
 視線の先の暗闇には、大きな四足獣が2頭いました。スラっとした首と、大きくすべらかな体躯。そこには、2m近くはあろうかという巨大なエゾシカが並んで立っていました。
 視線の先の光景に、我を忘れて見入ってしまう。一瞬、置物かと思ったけれど、時々顔が動いたりしているのをみて本物だと確信します。
 そういえば、この阿寒湖畔キャンプ場は、ほぼ毎日のようにエゾシカを見られることで有名な場所だということを思い出します。雨が降っていたから、てっきり見られないものだと思っていたけれど、うれしい誤算です。
 昨日のキツネに続いてエゾシカを見られるとは。流石、自然豊かな道東。
 
 エゾシカをずっとみていると、隣の女の子が話しかけてきました。

女の子「あれって、シカですよね……?」
私「多分、そうだと思いますよー、シカなんて初めて見ました」
女の子「わたしもです」

 女の子は、ニコニコしながらそんなことを言った後、シカに向かってカメラを構える。しかし、キャンプ場が真っ暗でうまく撮れないようでした。
 
 話のきっかけを得れば話すのなんて簡単で、女の子とはシカの話を皮切りにいろんな話をして仲良くなりました。
 女の子は、大学の自転車サークルで北海道めぐりをしているらしかった。向かいで芋虫になっている二人はその仲間なのだとか。女の子は、対面で寝ている男の子と仲が良いらしく、ことあるごとにいじりまくっていた。
 
 女の子は、一眼レフに詰まった旅の写真と共に、今までの旅のことを語って聞かせてくれました。どうやら、女の子たちは、帯広の方から北東方面に上ってこちらにきたらしい。帯広のほうも自販機やコンビニなどの補給場所がほとんどないらしく、補給に困ったのだとか。

女の子「なぜか牧場だけ沢山あって、たまたまみつけた牧場のジェラート屋でクソ寒かったけどジェラートを震えながら食べましたよ」
私「へ、へえ……(考えるだけで寒くなる拓夏」

 考えるだけで寒くなる状況に、思わず身震いしてしまいます。でも、私も補給場所がそこしかなかったらジェラートを食べていたんだろうなあ……
 私も、ここに来るまでに補給場所が全くなく、全身に詰め込んだカロリーメイトを食べて生き延びていたことを話しました。
 女の子の話と私の経験を照らし合わせるに、道東やその付近は本当に補給場所がないのだと改めて実感しました。やはり、補給食を多めに買っておいてよかった。
 とりあえず、帯広の方に行くときは私も気をつけないといけないと思いました。
 そんな他愛のない話をしながら笑いあっていると、女の子の方から「明日はどうするんですか?」と聞かれました。
 明日はこのキャンプ場から出て、津別の方まで走る予定でした。明日の予報も雨だったけれど、帰りの飛行機の時間があるのでのんびりもしていられなかった。
 そんなことを話すと、「雨なのに大変ですね…」と言われました。
 女の子の方は、雨で身動きが取れないので、明日もこのキャンプ場に留まるのだそうです。雨が止んだら、網走の方まで北上するのだとか。
 お互いいい旅をしようね、なんて言って笑った。旅先で出会った名前も知らない人と健闘を祈り合うのは、なんだか不思議な感覚です。でも、私は旅のこういう感覚がたまらなく好きだった。

 空になったビール缶をもって、足湯を後にします。
 足湯から上がった後は、少しだけyoutubeを見てから寝ました。寝袋にくるまると、泥のように手足が重くなるのを感じます。今日は雨に打たれつづけて疲れたのでしょう。心地よい疲労感に身をゆだねていたら、いつの間にか眠りに落ちていました。
 スヤァ……

 後半に続く