【2020年道北旅】日本最北端を目指す旅【4・5日目】

2021年1月30日

 どうも、拓夏です。今回は、2020年の8月9日~16日に行った道北旅の4日目と5日目について書こうと思います。

 前回のは、こちらからどうぞ。

 利尻島にて

【4日目】旅人の宴【稚内(雨のため停滞)】

 ※一日中停滞していたため、写真はないです。
 ふと、扉の外から聞こえるはなし声で目を覚ます。時刻は6時半だった。
 昨日、寝たのが夜中の1時だったのもあって、まだ眠たかったので二度寝した。
 次に目を覚ましたのは、8時頃だった。部屋を出てあたりを見渡すと、今朝までにぎやかだったリビングがやけに静かだった。
 昨日、20人ほどいた旅人たちは、自分たちの目的地を目指して出発していったらしい。昨日、私によくしてくれたおじさんとお兄さんもどこかへ旅立ったようでいなかった。外を見ると、雨が降っていた。
 今日の稚内は、終日雨の予報だった。だが、昨夜のおじさんの話によれば、道央の方は晴れているのだそうだ。ライダーさんたちは、晴れている場所を目指して旅だったのかもしれない。
 それにしても、同じ道内でもこれだけ天気が違うのは驚きだ。改めて、北海道は広いと感じる。

 稚内から離れるつもりのない私は、今日はこの宿に留まることにしていた。
 ライハに残っていたのは、私を含めて3人ほどだった。逆に、それ以外は全員どこかへ旅立っていったということになる。ライダーさんの行動力のすさまじさよ……

 雨だとなにもやることがないので、私はずっとゴロゴロしていた。稚内観光でもしようと思ったが、冷たい雨に打たれてまで外に出る気持ちにはなれなかった。部屋の中にいてもそう思うくらいに、雨の稚内は寒い。
 とはいえ、ゴロゴロしていても腹は減る。しかたなく、私はライハの傘を借りて、近くのセコマまで朝食とついでに昼食を買いにいくことにした。
 外に出ると、夏の気温か疑うほどの寒さに震えた。サンダルで水たまりをじゃぶじゃぶかき回しながら歩く。セコマは少し歩いたらすぐについた。
 二食分の食料と水を買って、ライハに戻る。ライハに戻った後は、ずっと部屋の中でゴロゴロしつつブログの文面を考えたりして過ごした。
 
 トイレに行くために部屋を出てリビングをと売ろうとすると、丁度、連泊の人の集金が始まった。集金の折に、残っていた人たちと顔を合わせる。一人は大学生の男の子でもう一人はおじさんだった。
 なりゆきで、この二人としばし話す。男子大学生の方はキャニオンのロードバイクに乗っているのだそうだ。ライハは、その名の通りライダーが多い傾向にあるので、チャリダーに出会えるのはうれしい。彼とは、同じチャリダーだったのもあってすぐに仲良くなった。
 彼は、大学生の長い夏休みを使って、宗谷岬から佐多岬までを走破する日本縦断に挑戦するのだそうだ。ライハのような沢山の旅人たちと交流できる場は初めてらしく、いろいろな人に会えてとてもうれしそうにしていた。
 日本縦断時には、どうやらおじさんの住んでいる地域を通るらしい。おじさんは、それをきいてうちに泊まりにおいでと言っていた。私は驚いたが、おじさんは、これも何かの縁だからと言っていた。おじさん曰く、そういう縁は大事にした方がいいのだそうだ。おじさんの懐の深さに胸が熱くなった。

 そんなこんなで話をしていると、おばさん(以降、おかみさん)の電話が鳴った。その電話を置くなり、おかみさんは私に向かって、私の泊まっている部屋にもう一人くるから、仲良くしてやってくれと言った。私は肯いた。

 しばらくしてから、ライダーさんたちがずぶ濡れになって入ってきた。そのあとに、ずぶ濡れになっておねえさんが入ってきた。どうやら、この人と同室のようだ。

 一緒に話していた大学生の男の子とおじさんが銭湯の方にいって暇になってしまったので、私も銭湯に行くことにした。暇だし、ひとっぷろ浴びてから漫画でも読んで時間をつぶそう。
 風呂に入って銭湯でぶらぶらしていたら、先ほどのおねえさんがいたので話しかけてみる。話していると、このおねえさんもチャリダーらしいことがわかった。しかも、グラベルロードに乗っているとのことだった。おねえさんが乗っている自転車が私の好きな自転車だったのもあり、話はさらに盛り上がった。
 おねえさんと話していると、他にもいろんな人が話しかけてきた。そのうちの一人であるお兄さんは、折り畳み自転車でアジアのいろんな場所を旅していたのだとか。今年はご時世がご時世なのもあって海外に行けず、国内を旅しているのだそうだ。
 日本の旅はあまり慣れていないらしく、特にごみを捨てられる場所が少なく困っていると聞いた。
 確かに、北海道ではゴミ箱を封鎖して使えないようにしている所が多く、ごみ事情に関しては厳しい。自転車は、他の乗り物と比べて積載容量に限界があるので、ごみを極力捨てたい気持ちはわかる。
 一方、海外ではあらゆるところにゴミ箱があり、ごみを捨てるのに困らないらしい。そのほかにも、国によっては文化的な部分で旅人に優しいところもあり、日本よりもよっぽど旅しやすいと言っていた。
 日本は治安が良く旅をしやすいというイメージを抱いていた私としては、衝撃的な話だった。世界って広いんだなあ。

 銭湯を出て部屋に戻る。とりあえず、21時のミーティング(例の恒例行事はこう呼ばれているらしい)までゴロゴロする。今日はずっとゴロゴロしてばかりだなあ……
 
 ゴロゴロしていたら、21時になった。
 ライハに泊まっている旅人がリビングに集結する。そして、全員揃った瞬間にリビングの電気が消され、ミラーボールの怪しい光が部屋の中をぐるぐると回りだした。
 一瞬で異様な空間になったリビング。その中で、マイクを持ったおかみさんが絶妙なトーク力を駆使し、ミーティングの内容や注意点などを語りだす。
 注意点というのは、主に「暴れないでください、仲良くしてください」というだけのことだった。どうやら、過去には暴力沙汰などの困った事件があったらしく、その惨劇を再び引き起こさないための注意らしい。おっかねえ……
 おかみさんの軽快なトークが終わり、次は自己紹介タイムになった。
 おかみさんからマイクをもらった人から時計回りに自己紹介していく。20人くらいいたけれど、常連さん、仕事を辞めてきた人、ライハを経営しようとしている人、学生最後の思い出作りをする人……と、みんなそれぞれ独自の事情を抱えて旅に出ているようだった。人に歴史ありだなあ、と思う。
 個性的な人ばかりで、話を聞いていて面白かった。
 自己紹介が終わった後は、松山千春の「大空と大地の中で」をみんなで歌った。
 この曲は、おかみさんが大好きな曲らしい。北海道らしい力強さを感じる曲だ。

 ミーティングの後は、雑談したり飲んだり。
 私は、今朝仲良くなったキャニオン乗りの大学生とずっと話していた。日本縦断時に支笏湖のあたりを通るかもしれないといっていたので、道央旅をしていた時に通行止めとなっていた道や、近くのキャンプ場を教えたりした。

 明日も早かったので、話はそこそこにして部屋に戻って寝ることにした。
 布団に潜り込んで、明日のことを考える。
 明日は、稚内から出ている早朝のフェリーに乗って利尻島に行く予定だった。利尻島は、自転車を乗り始めた当初からずっと行きたかった場所なのもあって、ワクワクした。
 この日は、ワクワク感と絶妙な緊張感があってなかなか寝付けなかった。


【5日目】いざ、マボロシ島へ!【稚内~利尻島】

 ふと、目が覚める。ぼんやりした頭で窓の外を眺める。
 窓から差し込んでくる光がうすぼんやりとしているのを見て、日が昇り始めたくらいの時間だろうと推察した。携帯で時間を確かめると、もうそろそろで4時になるところだった。

 起きて、トイレに行く。用を足してから出ると、リビングに誰かがいるようだった。
 暗すぎてよく見えないので目を凝らしてみようとすると、向こうから話しかけられた。どうやら、キャニオン乗りの大学生のようだった。
 よく眠れたかと聞くと、暑くて全く眠れなかったと言っていた。ふと、彼の泊まっていた2階の部屋は、湿気がこもりやすいので暑いと誰かから聞いたのを思い出す。1階でも湿気がこもって少し暑かったから、二階はもっとひどいのだろう。
 もういくのかと聞くと、彼は暗闇の中でもわかるくらい目を輝かせて「はい!宗谷岬に行かなくちゃ」といった。
 彼の目は、これから始まる冒険の期待に満ち溢れていて眩しかった。その目はまだ見ぬ宗谷岬と、旅の終着点である佐多岬をまっすぐに見つめているようだった。
 これから始まる長い冒険の予兆に、私まで心が躍った。私は、どうか彼の旅がうまくいきますようにと、心の中で密かに願った。

 彼と別れて部屋に戻る。何度か睡眠をとろうとしたけれど、結局、眠れないまま出発時間になった。
 同室のおねえさんも目を覚ましていたようだ。おねえさんも利尻島行きの船に一緒に乗ることになっていたので、一緒にライハを出た。
 ライハを出て、フェリー乗り場を目指して自走する。この辺りの道は、路面が割れていたり砂利が多く、かなり荒れていた。
 途中で道を間違えたりしつつ、なんとかフェリー乗り場に到着した。

 フェリー乗り場の自転車置き場に自転車を置いていると、見知った顔に出会った。
 一昨日、みさき台公園キャンプ場で出会った、北海道一周中のあの青年だった。また会えたことがうれしくて、つい元気に挨拶してしまう。

 自転車を停めてから、フェリーの受付へ。運賃と自転車の積み込み代金を払って、乗船券をもらう。乗船券はタグのような形をしており、自転車に括り付けられるようになっていた。

 乗船券を自転車に取り付けてから、車両用の搭乗口へと向かう。
 自転車も車やバイクと同じ車両扱いなので、乗り込むときに乗客用の搭乗口からではなく、船体後方にある車両甲板からそのまま乗り込むことになっている。
 搭乗口には、すでにバイクの列ができていた。乗組員のおじさんに促され、その列の最後尾に並んだ。
 
 船体の後方から折りたたまれていた車両甲板の一部が降りてきて、地面に橋をかけるように降ろされた。目の前に、緑色の大きな空間が現れる。
 
 乗組員のおじさんに促され、車両甲板に乗り込んだ。同時に、油のすすけたような香りが鼻につく。旅の始まりを告げる匂い。
 乗り込みながら、先ほどであった青年がキャンプ場で「フェリーに乗り込むとき、『あ、旅が始まったんだな』って気分になるんです。」といっていたことを思い出した。私も、全く同じ気持ちのまま、フェリーに乗り込んだ。

 乗組員の人たちに自転車を任せて、客室へ向かう。車両甲板から一番近い二等客室の雑魚寝エリアに腰を下ろす。
 
 しばらくすると、汽笛の音と共に景色が動き出した。思わず窓に張り付いて、遠くなってゆく稚内の街並みを眺めた。
 これから、利尻島に行くのだと思うと、期待で胸がいっぱいになった。
 どんな景色が待っているんだろう。そんなことを考えていたら、眠るつもりだったのにワクワクしすぎてずっと起きていた。

 徐々に近づいてくる利尻山。到着はもうすぐだ。
 
 しばらくすると、船内に「車両を積載した人は車両甲板に戻るように」という旨の放送が流れた。客室から車両甲板に向かう。

 車両甲板に繋がっている扉を出ると、目の前にバカでかいトラックが何台も止まっていた。トラックの合間を縫って、愛車のもとへ急ぐ。
 乗組員のおじさんから自転車を受け取り、しばし待つ。
 しばらく待っていると、車両甲板のハッチが開いた。同時に、おじさんたちがものすごい勢いで駆けこんできた。
 困惑して立ち止まっていると、あるおじさんはトラックに乗り込み、あるおじさんは船内に設置されている箱の中に入っていた段ボール箱を取り出していた。なるほど、船で運んできたものはこうやって取り出すんだなあ。

 そんな様子を見守りながら、下船のタイミングを待った。
 車両甲板から降りる場合は、車、バイク、自転車の順番で出ていくルールになっている。自転車は最後なので、出ていく車を見ながらのんびりと待った。
 自転車を引いて外に出ると、頭上にはピーカンの青空が広がっていた。絶景が約束された天気だ。

 ピーカンの青空。

 それを見た瞬間、寝不足の頭が一瞬で起きた。

 やべえ、眠いとか言ってる場合じゃねえ……!!

 下船後は、朝食を食べるためにおねえさんと一緒にセコマへ向かう。
 セコマへ向かっている途中、なんだか後輪に違和感があった。いつもよりもペダルが重いというか、身体に跳ね返ってくる地面の反動が大きいというか……
 ふと、後輪を見てみると、タイヤがへこんでいた。

 パンクした後輪。

 ぱ、パンクだ……!!

 ロードバイクに乗って初めてのパンクだった。おそらく、船内でなにかしらあってパンクしてしまったのだろう。
 焦りつつ、とりあえずセコマまで走る。セコマの邪魔にならなさそうな場所で自転車の後輪を外し、パンク修理をすることにした。
 一緒にきていたおねえさんには、先に行ってもらうことにした。一緒に走る約束をしているわけではなかったから、こんなことを言わなくてもいいのかもしれないけれど、同じ宿で同じ部屋に泊まった仲だ。できれば、お互いいい印象で終わりたかった。
 おねえさんは肯いて、そのまま走り出した。
 
 おねえさんの背中を見送ってから、パンク修理に取り掛かる。
 パンクを修理するのは初めてだったが、こんな時のためにパンクの修理方法を頭に叩き込んであった。
 タイヤを外し、ぺちゃんこになったチューブを取り出す。そして、タイヤの中に新しいチューブを入れてタイヤをホイールにはめ込む……
 単純な動作だけど、これがなかなか難しかった。タイヤは固くて取り外しにくかったし、チューブを入れるのも一苦労だった。
 なんとか、パンク修理を終えて走り出す。
 ようやく、利尻島一周スタートだ……!

 今回は、利尻島サイクリングロードを参考にして走ることにしていた。利尻島は自転車に優しい島で、自転車で一周しやすいようにサイクリングロードが各所にあるのだ。今回は、時計回りで一周することにした。
 とりあえず、一周開始地点の利尻温泉へ向かう。

 利尻温泉までは、ずっと上りだった。寝不足の体に鞭打って上っていく。
 利尻温泉につくと同時に、うっそうとした林のなかにサイクリングロードの入り口を発見。サイクリングロードに入って、次の目的地である姫沼を目指すことに。

 木漏れ日の中を走る。サイクリングロードは、左右が林になっていて、日陰となっていたから走りやすかった。
 林を抜けてしばらく走ると、橋をいくつも超えていくルートに入る。
 左手には利尻の広大な海、右手には雄大な利尻山という最高のロケーション。ピーカンの空なのも相まって、余計に絶景度が増していた。
 The 島って感じの景色にテンションが爆上がりする。雄大な景色を眺めながら、爆走した。

 利尻山の山頂が見える。

 橋の上にて。利尻山を眺めながら走るのは最高。

 橋の上から見える海。

 利尻山。なんというか、島感のある山だ。

 絶景ロードを超えると、姫沼に到着した。

 利尻山と姫沼。

 深い碧をした湖面は、太陽の光を浴びて一層輝いていた。沼の奥には利尻山が悠然と聳え立っていた。
 雄大な景色を目の前にしばらく立ち尽くした。う、美しい……!

 何枚か写真を撮って姫沼を後にする。次の目的地である野塚展望台を目指して走る。
 しばらく、サイクリングロードを走っていると、奥に海が見えてきた。

 海だ!

 海を目指して走り続けると、野塚展望台に到着する。

 野塚展望台。海が一望できる。

 野塚展望台からは、利尻の海を眺めることができた。
 利尻の海は、透き通った綺麗なマリンブルーだった。いままで見てきたどの海とも似ていない、清涼とした青。確か、写真で見た積丹の海が、こんな感じの色だった気がする。これが日本海の色か……!
 ふと、海から目を離して左手を見ると、利尻山が聳えていた。それを見て、さらにテンションが上がる。なんだこれ、絶景コンビかよ。

 野塚展望台から見える利尻山。

 野塚展望台を後にして、次はオタトマリ沼へと向かう。

 海へと続く道

 目的地に向かって走っていると、遠くからバカでかい真っ白な雲が押し寄せてきて、快晴だった空を白く染め上げた。快晴が一瞬でゴミ天気に代わってしまって悲しい。

 迫りくるゴミ天気。

 悲しみを抱えながら走っていると、ついにオタトマリ沼に到着した。
 
 オタトマリ沼と愛車。

 空を見上げると、真っ白い雲が頭上を覆っていた。あたりは少し薄暗くなっている。
 太陽が隠れてしまったのもあって、少し肌寒かった。身震いしながら、早くここを出て次にいこうと思った。
 そんなことを思っていたら、誰かにうしろから声をかけられた。振り返ると、セコマで別れたおねえさんがそこに立っていた。
 しばらく、おねえさんと雑談してからオタトマリ沼を発った。

 鈍色の雲を見上げながら走る。この辺りは海風が強く、終始冷たい風が身体に吹き付けてくる。向かい風が吹き付けてくる中、寒さに震えながら走っていく。
 必死で走っていたら、目的地だった「白い恋人の丘」を過ぎてしまった。仕方なく、次の目的地である仙法志御崎公園を目指すことに。

 左手に見える海は、先ほどの穏やかで透き通った海と同じなのが信じられないほど荒れていた。波がごつごつした岩場に打ち付けられている様は、まるで嵐でも来たかのようだった。

 そんな光景を見ながら走っていると、仙法志御崎公園に到着した。

 荒れ狂う海。

 仙法志御崎公園にあった張り紙。本来なら、アザラシを見ることが出来たかもしれないのか……

 仙法志御崎公園についた頃には、天気はさらに悪化していた。この辺りは、海を一望できるが、荒れているのと強風が吹きつけてきて寒かったので、早々に次の目的地へ向かうことにした。

 荒れる海の横を走る。

 仙法志御崎公園を出た後は、利尻町博物館にいくことにした。
 外がとにかく寒かったので、どこかで風をしのげる場所に避難したかった。
 博物館まで走り、すぐに中へ入る。

 入り口の付近には、利尻島の歴史や灯台についての説明が書かれたポスターが並んでいた。
 それをみつつ、さらに奥に進もうと思ったら、係員の人に「この先は有料です」と言われた。そんなに高くなかったので入ってもよかったのだけれど、なんだかんだで入らずに出た。

 博物館を出た後は、利尻町運動公園へ向かう。
 この辺りからは、またサイクリングロードを走ることになる。
 だが、その肝心のサイクリングロードの入り口がわからず、付近をうろうろする。
 なんとかサイクリングロードを見つけて走る。この辺りは、いままで走ってきた整備の行き届いているサイクリングロードと違い、道がガタガタだった。
 
 サイクリングロードを走り、富士野園地へと向かう。
 走りながら遠くの空に目を凝らすと、白い雲が切れてピーカンの青空が見えた。

 神天気再び……!

 天気はみるみる回復していき、元通りのピーカンの青空に戻った。
 今いる場所は、丁度、島の東側に位置する。雲の様子といままでの道を照らし合わせると、どうやら、天気が悪かったのは利尻島の南側だけらしかった。
 それにしても、北と南でこれだけ天気が違うのに驚いた。天気が移ろいやすい島ならではの状況。

 いつの間にか、富士野園地を超えてしまっていたので、次の目的地の夕日ヶ丘展望台へと向かう。
 草原を突っ切って作られたようなサイクリングロードを走る。道は開けていて、左手を見ると広大な海、右手を見ると利尻山が見える。
 利尻山はこの島のど真ん中にあるので、視界の開けた場所ならどこからでも眺めることが出来る。島のどこにいても、この形のいい山を眺めていられるのは、最高の贅沢だ。
 頬を撫でる風からは、草原の青い匂いと海の潮の匂いがした。日の光は温かく、冷えた身体を温めてくれる。身体が温かくなると、心まで温かくなるような気がした。
 風が草原を水面のように揺らしていく。目の前の大自然を眺めながら、ああ、いい島だなと、なんとなく思った。

ひたすらまっすぐなサイクリングロード。

 愛車と利尻山。

 海に浮かぶ小島と半島。島感のある風景。

 大自然を走る。

 澄んだ青が美しい。

 草原を切り開いたみたいな道。

 しばらく走ると、夕日ヶ丘展望台に到着する。
 展望台といっても、海沿いの小高い丘に階段を付けて登れるようにしたもので、人工物ではない。それもあって、遠目から見るとただの半島のように見える。
 自転車を置いて、展望台を上る。展望台の階段は急で、少し踏ん張って上る。
 階段を登り切って頂上に立つと、そこからは利尻山と海と街並みが一望出来た。360度のパノラマは、一言でいえば絶景だった。
 
 サファイアのような海が広がっている。

 右側に視点をずらすとこんな景色。

 後ろを振り返る。利尻山と麓の町並み。

 水平線上には遮るものがなく、ただ緩やかな曲線を描いている。水平線上に遮るものが一切ないのは、島ならではの光景だ。私がこの世で一番好きな光景。
 こういう景色が見られるから、島旅はやめられない。
 
 景色を目に焼き付けてから、夕日ヶ丘展望台を降りた。
 さて、ゴールはもうすぐだ。

 夕日ヶ丘展望台から少し走ると、ゴールである鴛泊港に着いた。

 利尻島一周の終着点である「海の駅おしどまり(鴛泊港)」。

 絶景続きの利尻島一周を終えると、すがすがしいような、寂しいような気持ちになっていた。ずっと憧れていた島は、自分が思っていた以上に絶景で溢れていた。
 一周を終えたばかりなのに、また一周をしたい気分になっていた。その気持ちを抑えてキャンプ場へと向かう。
 キャンプ場は、一周開始地点である利尻温泉の近くにあった。
 
 キャンプ場の受付を終えてキャンプサイトへ。
 このキャンプ場には、ファミリー向けの大きなテントよりもソロキャン用の小さなテントが多かった。私と同じ、ソロで旅をしている人が多いのかもしれない。

 テントを張る場所を探すためにキャンプ場をうろうろしていると、ライハで同室だったおねえさんをまた見つけた。軽く言葉を交わして、テントの設営場所を探すのに戻る。

 今日は、夜に風が強くなる予報が出ていたので、風をよけられそうな場所にテントを張った。
 テントに荷物を詰め込んでから、キャンプ場のすぐ近くにある利尻温泉へ向かう。

 受付をし、浴場に向かう。
 そして、身体を洗って、大きな湯船にゆったりと浸かった。硬くなった筋肉がほぐれていくような感覚。自転車で走った後の風呂は気持ちがいい。
 露天へ行くと、湯船のすぐ近くに森があった。木々を見上げながらゆっくりと身体の中に溜まった疲労を取り除く。

 その後、サウナなどを楽しんでから浴室を出る。
 洗濯物をコインランドリーに入れてから、温泉の休憩室へ。休憩室には、私のほかに家族連れなどもいて賑やかだった。空いている畳の上に寝転んで、天井を見上げる。旅先でのこういうのんびりした時間が好きだったりする。
 
 洗濯物が終わったので温泉を出る。テントに戻る前に、晩御飯を買いにセコマへ向かうことにした。
 晩御飯とサッポロクラシックを2本買ってテントに戻る。
 テントに戻ってからは、youtubeを見たりラジオを聞いて過ごした。テントの中で寝転がりながらサッポロクラシックを飲む。

 サッポロクラシック。走り終わったあとのビールはうまい。

 風呂上りにテントで飲むサッポロクラシックはうまかった。
 ビールを2本空けると、眠気がやってきたので、寝袋に潜り込んで眠ることにした。
 昨日、ほとんど眠れなかったのもあって、意識はすぐに闇へと落ちていった。

 スヤァ……


 6日目へ続く